フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。フェスも大好きな宇賀さん。2017年には初めて「フジロック・フェスティバル」へ。「夢の国」と語る空間での思い出とは。
「恋しくて フジロック」
音楽が好き。自然が好き。
だから、あの空間が恋しくて仕方がない。
2017年7月末。
ちょうど4年前の今頃、私は初めて
国内最大級の野外音楽フェス「フジロック」に参戦した。
もともとフェスやライブが大好きなのに、
「遠い」「かなり歩く」「天気が荒れる」と、
過酷であるという情報ばかり耳に入り、
フジロックには、なかなか挑戦できないでいた。
でもこの時は、直前に友達に誘われて、
土日のスケジュールも調整できたので、
長靴やポンチョを急いで準備して、
えいっと行ってみることにした。
まず、新幹線が混んでいた。
前日にチケットを購入したのでまだ空きはあったが、
いつものようにギリギリだったら、乗れなかったかもしれない。
土曜日の朝に、会場に着いた。
今にも雨が降り出しそうな灰色の空の下、
カラフルな衣装に身を包んだ仲間たちが進む。
すでに色々なジャンルの音楽があちこちで鳴り響き、
飲んだり食べたり、アトラクションで遊んだり
大人も子供も、のびのびと楽しそうにしている。
音楽を聴きながら、自然の中で飲むお酒の味には驚いた。
控えめに言っても、家で飲む時の5倍はおいしい。
午後には突然の大雨。
ポンチョの意味がないくらいぬれて、
足元がぐちゃぐちゃになって汚れたが、全然気にならない。
雨粒の入ったビールを、グイッと飲み干した。
想像以上に愉快で、自由だった。
誰にも気兼ねせずに、ありのままの自分でいられる。
アナウンサーの先輩や学生時代の同級生、
音楽関係の仕事でお世話になった人など、
普段六本木や渋谷を歩いている時よりも、知り合いにたくさん会った。
あの場所で会うと、グッと距離が近くなる。
友達の友達は皆友達だぜ!という気分になる。
タイムスケジュールを完璧に組んでいる人がいれば、
ふらふらと動き回る人、ずっとテントの中でのんびりしている人もいて、
楽しみ方はそれぞれなのだと知った。
朝から深夜まで、どこかで何かの音楽が聞こえた。
普段は真面目に、規則正しく暮らしている人々が、
年に一度、この夢の国に戻ってくるのだろう。
雨の中のThe Avalanches(アヴァランチーズ)や、初めましてのDYGL(デイグロー)。
人の波に押し潰されそうになって聞いたオザケン、暗闇の中のbjörk(ビョーク)も、
全部、あの時にしか味わえないステージだった。
帰りは深夜になり、家に着く頃には日付は月曜日。
数時間後に出社しなければいけなかったが、
心地よい疲労感に包まれ、胸は弾んでいた。
今年も、フェスの中止が相次いでいる。
致し方ないことだとわかっていても、
あんなに素敵な場所が失われてしまうのは、とても悲しい。
色々な考えがあり、色々な意見がある。
それは当然のことだが、
傷つけあうより、認めあい、許しあえる世界に住みたい。
まだもう少し、時間がかかりそうだけど、
いつかまた、友達の友達と乾杯できる日を夢見て……
音楽が好き。自然が好き。
だから、あの密が恋しい。
音楽と自然、恋しいあの空間 宇賀なつみがつづる旅(23) - 朝日新聞デジタル
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