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Monday, August 30, 2021

自然に有益だったはずの山火事は、こうして「地球の脅威」へと変化した - WIRED.jp

山火事は本来、健全な森林には欠かせない自然現象だった。それがいまや、生態系を破壊する“怪物”に成り果てている。

かつての山火事は下生えを数十エーカー(10万平方キロメートル前後)ほど燃やす野火でしかなく、このおかげで新たな植物が成長していた。それがいまでは強烈な熱と煙を生み出し、雷雲まで発生させ、落雷のおかげでさらに山火事が拡大している。

最近は大規模な森林火災がたびたび発生しては、広大な土地が焦土と化している。カリフォルニア州で7月に発生した通称「ディクシー・ファイア」は1カ月以上にわたって950平方マイル(約2,460平方キロメートル)を焼き尽くし、同州で2番目に大きな山火事となった。それが8月中旬の時点で、わずか31%しか消火できていない。

このように「いい火災」が「悪い火災」へと変貌した要員は、ふたつある。気候変動に加えて、皮肉なことに消火活動の積み重ねだ。

まず、気候変動によって草木が乾燥し、破壊的なまでに燃えやすくなった。そして消火活動、特に生命や建物を脅かすほど大きな火災の消火活動の結果、こうした燃えやすい草木が新たに生えて広がってしまった。

生態系における“リセットボタン”

なぜこのような誤った方向に進んでしまったのか。それをひも解く前に、ヨーロッパ人が北米大陸の西側に侵攻する以前の山火事と森林の関係を理解するとわかりやすい。

歴史を振り返ると、山火事は生態系におけるリセットボタンのような働きをしていた。まず、雷を伴う嵐がやってきて低木や草地に火を放つと、森林の低木層から火災が広がる。これは乾燥したカリフォルニアの森林地帯にとって、なくてはならない現象だった。多雨林とは異なり、枯れた植物が微生物に分解されることがないからだ。 こうして、放置すれば地面をブランケットのように覆って植物の成長を阻む枯れた植物を取り除ける、というわけである。

また、草食動物が好む栄養価の高い植物を新たに育む場所も生みだした。そして新たに生えた木の実が熊の餌になり、新たな草地が鹿などの動物の餌になり、生えてきた野草は受粉する昆虫の餌になった。

「シカのように頻繁に移動する有蹄動物の多くは、火災で焼けた土地と焼けていない土地が隣り合った広大な区域を好みます」と、ワシントン大学の森林生物学者デイヴ・ピーターソンは言う。「こうすれば新たな餌にありつけますし、隠れ場所にもなるからです」。ここで言う隠れ場所とは、焼け残った枝葉のことだ。

森林がもつ“集団免疫”

こうした山火事は、植物の生態系にもいい影響を与えた。特定の種が過剰に成長することを防いだのである。

まず、樹木が火災に適応した。分厚い樹皮をもつ種が火災を生き抜いて森林を再生させ、樹木の個体数の増えすぎを食い止めたのだ。一方。病気の木や樹皮の薄い若木は火災で消失し、生き残った樹木の種子は山火事の跡地で生い茂った。また、火災で発生した炭化物で土壌の栄養分が豊富になり、樹木が“間引き”されたことで地面に降り注ぐ太陽の光は増えた。

それに背の低い草木が定期的に焼失すれば、大きな山火事にまで発展することもない。「いまでは想像もつかないことですが、2~3年おきに山火事が発生していれば、乾燥した森林でも燃えるものはほとんどなかったのです」と、オレゴン州立大学の火災研究者のクリストファー・アドラムは言う。「歴史を振り返ると、たとえ高温で干ばつの年でも山火事があちこちで爆発的に発生したことはありません。燃えるものがいまほど大量に存在しなかったからです」

昔の山火事は、いまも燃え続けているディクシー・ファイアのように何十万エーカーにもわたって延々と拡大するのではなく、森林に焼け跡を点在させるにすぎなかった。こうした焼け跡には燃えるものがほとんどないので、その後の火災では防火帯のような役割を果たす。落雷で近くに新たな火災が発生しても、この焼け跡にじりじりと接近して、そこで止まるわけだ。

「わたしたちの森林には“集団免疫”の仕組みがあります」と、原野火災の生態研究者で政府機関の活動を支援しているR. W. Gray Consulting社長のボブ・グレイは説明する。「次々に大量に山火事が発生したことで、その機能が十分に作用しなかったのです」

「火災の鎮火」がもたらしたこと

北米大陸に初めて上陸した人々は、定期的に自ら火を放つことで小規模の山火事を引き起こし、生態系の生産性を高めていた。そこにヨーロッパ人がやってきて、大陸の西側全体に住宅を増やして産業を築いた。こうして生まれたのが、「火災とは鎮火するもの」という考えである。人々の命と所有物を守るために、山火事はできるだけ素早く消さなければならなかったのだ。

ところが、西海岸の乾燥した森林地帯では、植生を再循環させる微生物の活動が少ない。そこに「火災を鎮火する」という考えが浸透したことで、結果的に燃えやすいものが危険なほど大量に蓄積されてしまったのだ。

例えば、ブリティッシュコロンビア州南東部のクランブルック周辺を見てみよう。火災を鎮火する活動が始まる前、この地域の森林は主にポンデローサマツとベイマツで覆われており、1ヘクタールあたりの樹木は50本にも満たなかった。

また、この地域の火災は比較的小規模で、平均すると7年に1度発生していた。草や低木、樹木のくずを燃やした弱い山火事は、大半の樹木を残しながらもその個体数の過剰な増加を食い止めていたのである。

だが火災を「鎮火する」という長年の活動の結果、いまやクランブルック周辺には1ヘクタールあたり10,000本もの樹木があり、その95%はベイマツである。樹木の個体数を抑制していた定期的な火災がなくなったことで、ベイマツが占領してしまったのだ。「生態系のサイクルから山火事を取り除くと何が起きるのかを示す典型的な事例です。結果として植物の種とその構造、つまり森林の密度に大きな変化が生じたのです」と、生態研究者のグレイは言う。

いまや樹木は密集し、山火事は簡単に森林全体に燃え広がるようになった。さらに悪いことに、1ヘクタールあたりの樹木数が200倍になったことで、「もう地表火災では済まないのです」と、グレイは指摘する。つまり、下生えだけが燃える火災では済まないのだ。

「これは強大な(樹木の上部まで燃え盛る)樹冠火災で、すべてのものを焼き尽くします」と、グレイは言う。樹冠火災になると、炎は木々の頂から頂へと燃え広がるのだ。

「いい火災」の見分け方

こうして森林には燃えるものが高密度で残り、天然の防火帯を失ったことも重なって“集団免疫”が失われた。いまや山火事は、またたく間に拡大するようになっている。なにしろ、“感染”を広げられる新しい場所がたくさんあるのだ。

それに植物も動物も、この手の大火災にどう対処していいのかわからなくなっている。「最近の火災は高温になっており、そこに生息している植物や動物の種はこれほどの高温に適応できないのだと思います」と、グレイは言う。「それに大規模な山火事が発生すると、そこから逃げ出した種が新たな場所で基盤を築くことは極めて困難なのです」

森林破壊による問題は、そのあと何年も残る。生き残った動物たちは捕食動物から身を隠す隠れ場所を失い、焼け跡は侵略的な種、特にこの機に便乗する雑草によって“植民地化”される。雑草が先に根付くと、焼き尽くされた土地に戻ってくる在来種を追い出そうとする。

「雑草はまさに山火事を利用しているのです」と、グレイは言う。「そして雑草は、その土地を均質化することで生態系を一変させます」

それでは、森林にとって「いい火災」と「悪い火災」は、どうすれば見分けられるのか。それは衛星やドローン、飛行機などを用いて樹木を数えることだ。

例えば、危険度の低い火災で焼失する樹木の数は20%未満で、危険度の高い火災では80%以上にもなる。同じ森林火災でも破壊の度合いは実にさまざまだ。周辺部の焼失が大きい場合もあれば、内側の焼失が大きいこともある。

火災の規模も要因のひとつになる。「火災が広い範囲に拡大した場合、森林は周辺部から再生しなくてはなりません」と、グレイは言う。「50,000ヘクタール(500平方キロメートル)もの火災では、再生に長いプロセスが必要になります」

原野火災の生態研究者は一般的に、土壌の構造や化学物質を解析して火災の強度を調べる。例えば、赤みがかった酸化鉄があれば、かなり高温の火災だったことがわかる。根の部分や地面に埋もれた種子が生き残っていれば、そこまで強い火災ではなかったことがわかる。

シンプルだが恐ろしい解決策

皮肉なことに、いま北米の西海岸で燃えさかっている山火事は、森林と都市に破壊的な猛威を振るい、危険な煙も出している。だが、それはあとで発生する火災を制御する助けにもなっている。

「大規模な山火事のなかには、かつて起きた山火事の焼け跡に入り込むものがあります。その後どうなるかといえば、火災の勢いが落ちるのです」と、森林生物学者のピーターソンは言う。「これは歴史的にも頻繁に起きていたことです。つまり、わたしたちが望む望まないにかかわらず、これが制御不能な大規模火災で起きていることなのです」

火災を専門とする科学者たちが示す解決策はシンプルだが、恐ろしくもある。それは、消防隊によって制御された山火事を放つことだ。しかも大量にである。

その点で先住民族は正しかった。繰り返し小規模の火災を起こして健全な生態系を維持し、制御できない火災を食い止めていたのだから。

地球温暖化が進むことで干ばつの厳しさが増し、危険な燃焼物が堆積する速度が上がっている。こうしたなか、枯れた草木の除去はますます不可欠だろう。

「わたしたちが目にしていることは、今世紀半ばに見られる光景に比べれば大したことではありません」と、ピーターソンは言う。「そしてもちろん、今世紀半ばをすぎてどうなるのか、まったくわかりません」

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