
東西80キロ、南北60キロに広がり、市区町村では日本一広い高山市。およそ9割を占める森林や3千メートル級の山々に囲まれる。
◆3000ヘクタールの「秘境」五色ケ原の森
北アルプス・乗鞍岳(3026メートル)の麓の「乗鞍山麓五色ケ原の森」(丹生川町)は、3千ヘクタールもの広大な森。さまざまな動植物が生息し、四季折々の表情を見せる。ほとんど手つかずの自然が残る、まさに秘境。三つある散策コースのうち、滝や池が見どころの「シラビソコース」(7・3キロ)を、案内人の塚本勝さん(70)と8時間ほどかけて回った。
ふかふかの土を踏みしめ、川の流れる音や鳥のさえずり、木漏れ日が心地よい。森の成り立ちや植物、キノコについて教わりながら、標高1300~1600メートルの間を進む。フィナーレの布引滝を目にすると、達成感が胸を満たした。「森には『何でだろう』と思うことばかりで、好奇心をかき立てられる」。20年近くガイドを続ける塚本さんは、尽きない魅力を語ってくれた。
自然豊かな地に歴史、文化も息づく。春と秋に営まれる高山祭は「日本三大美祭」の一つとされ、絢爛(けんらん)豪華な祭り屋台が人々を魅了する。国の重要無形民俗文化財で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されている。祭りの舞台にもなる重要伝統的建造物群保存地区「古い町並み」は往時の面影を残す。
◆息づく「飛騨匠」の技
一位一刀彫や飛騨春慶、渋草焼、小糸焼など伝統工芸の技も根付き、「飛騨(ひだの)匠(たくみ)」の魂が今もなお宿る。飛騨匠とは古代、都の造営のために飛騨国から派遣された技術者のこと。技術や感性が現代に受け継がれ、文化財群は2016年に「飛騨匠の技・こころ-木とともに、今に引き継ぐ1300年」として日本遺産に認定された。
独特の香りが漂う工房で、木地に黙々と漆を塗り続ける。飛騨春慶の塗師として50年以上活躍する鈴木利文さん(71)=桐生町=。「漆は生き物」。天気によって毎日、違う顔を見せる。「漆のことは死ぬまで分からない。魅力であり、難しさでもある」
ただ、需要が減っていく現状を危惧する。「これまで作ってきたものは残しつつ、他業種とのコラボレーションなど新たな試みにも取り組んでみる価値がある」と、これからの在り方を提言する。
国内外からの観光客であふれた町は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大で一変。観光関連産業は大きな打撃を受けた。市によると、19年に訪れた人の推計は473万人と05年の市町村合併以降最多だったが、昨年はその5割ほどに落ち込み、最少に転じた。外国人の宿泊客もピークだった19年の61万人から10万人にまで減った。
感染収束が見えない中、観光に携わる人たちも手をこまねいているわけではない。
保存地区の一角にある国指定重要文化財の日下部家住宅(大新町)。「ようござったな」。地元出身のボードビリアン上の助空五郎さん(43)が、パソコンに向かって柔らかな口調で語り掛ける。建物を管理、運営する公益財団法人「日下部民芸館」が9月から始めたオンラインツアーだ。学芸員の日下部暢子さん(54)は「コロナ禍で来館者は減ったが、守るべき場所であると伝えたい」と思いを話す。
観光客は戻りつつあるが、かつてのにぎわいにはほど遠い。今秋の高山祭も屋台の出番はなくなった。コロナ収束を祝える日が早く訪れてほしい。
【42市町村まるかじり】高山市 壮大な自然と文化共存 - 岐阜新聞
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