自然の中で保育や教育を行う欧州発祥の「森のようちえん」が、日本でも広がりを見せている。変化に富んだ環境に適応しながら、のびのびと遊び、さまざまな体験をすることで、感受性や自主性、コミュニケーション力、体力を養えるとして評価され、実施団体に財政支援を行う自治体もある。(佐藤健介)
陽光が差し込む森の中。つるを引っこ抜き、器用に輪っかを作った男児は「リースにしておうちに飾る」と得意満面。太い枝をつかんだ女児は「魔法使いになるステッキ」とわくわくした表情を浮かべた。
甲山森林公園(兵庫県西宮市)を拠点に活動する「森のようちえん さんぽみち」には2~6歳の約30人が通う。森を散策して木の実を拾ったり、草花や虫を見つけたり。「優しい心が育つ」と話すのは同市の会社員(38)だ。長男(8)は小学校入学前まで通い、たくさんの生き物と触れ合った。その後、次男(4)も入園し、トカゲやダンゴムシが大好きになった。
運営するNPO法人「ネイチャーマジック」(神戸市東灘区)理事長の野澤俊索さん(45)は「起伏に富んだ地形で遊んで身のこなしを覚え、天候の変化や生き物の動きを不思議がる感性を養い、発見した物を分かち合う思いやりを育む。自然の中にはそれぞれの個性を発揮できる環境がある」と強調する。
森のようちえんは70年ほど前にデンマークで生まれた自然育児が原形とされる。日本でも、テレビゲームやインターネットの普及などによる子どもへの影響が心配される中、各地で開設の動きが広まった。コロナ禍で密を避けられる点も評価され、入園を希望する保護者も増えているという。
「海水浴や雪遊び、干し柿作りなど、四季の移ろいや歳時記、風習を取り入れられるのが“日本流”」と野澤さん。
2008年に発足した「森のようちえん全国ネットワーク連盟」(東京)には約300団体(兵庫県14団体)が登録。連盟の公式ウェブサイトに連絡先などを掲載している。
同連盟は安全講習受講や安全管理マニュアル整備などの条件を満たした団体を安全認証している。理事を務める野澤さんは「子どもたちは擦り傷や切り傷などの小さなリスクから困難を乗り越えるすべを身に付ける。だから、大けがにつながらないよう、スタッフが安全管理に精通していなければいけない」と説明する。
一般の幼稚園で部分的に採用されるケースもあり、関心は高まっている。一方で、スタッフ育成や活動の質をいかに保つか、安定した財源の確保が課題だ。
野澤さんは20年5月、兵庫県内の森のようちえんでつくる「県自然保育連盟」を設立した。「自然の中で育まれる発想力、人とつながって何かを創造する力は、変化の激しい時代を生き抜く上で必要」とし、公教育としての位置づけを訴えている。
【森のようちえん】海や川、里山、農地などでの体験活動を取り入れた育児や乳幼児教育の総称。1950年代にデンマークの母親が始めたとされる。各国へ広まり、2000年ごろから日本でも活動が増加。担い手は幼稚園、保育園、学童保育、自然学校、育児サークルなど多彩で、園舎を持たないケースも多い。おおむね0~7歳児が対象。
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■移住促進へ支援制度
「森のようちえん」を含む野外保育・教育について、行政が、一定の基準を満たす実施団体を認証し助成する動きも出始めた。
兵庫県多可町は2017年度から、子育て世代の移住・定住促進策として同町を拠点とする「森のようちえん」を助成している。町内在住の幼児1人当たり年20万円(1団体につき上限100万円)を交付。20年度までに6件を助成し、30代の夫婦と子どもが同町に移住したという。
長野、鳥取、広島県は独自の認証制度を導入し、活動時間や設備などの基準を満たした団体に運営費を補助している。3県の知事らを発起人とする「森と自然の育ちと学び自治体ネットワーク」が18年に発足し、現在は兵庫県や養父市など120自治体が参加。情報共有や政策提言を行う。
兵庫県は21年度、園舎を持たず自然体験を提供する幼児教育・保育の利用について、子ども1人につき月2万円を上限に保護者に給付する制度を設けた。担当者は「多様な幼児教育・保育の活動を支援したい」と話す。(佐藤健介)
自然の中で生きる力育む「森のようちえん」 各地で広がり - 神戸新聞
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