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Thursday, November 10, 2022

自然を愛する虫博士 - 読売新聞オンライン

 ヘラクレスオオカブトのかぶり物をした男性。恐る恐る差し出された男の子の手のひらに、生きたスズメバチをそっと乗せた。

 四国アイランドリーグplus(IL)の試合会場に設けられた、昆虫の観察会コーナーは、多くの子どもでにぎわっていた。

 スズメバチの毒針は切られているため、刺される危険はない。男の子は、生き物の感触や羽ばたきの感覚を感じながら、スズメバチをじっと見つめている。

 「怖がられる蜂も、畑を荒らす芋虫を食べてくれるんだよ」。そう話しかけられた男の子は、真剣な表情を崩さない。

 「自然への愛着は、知識と経験を往復することで身についていくんです」。子どもに囲まれ優しい表情を見せながら、そう気持ちを込めた。

 NPO法人「みんなでつくる自然史博物館・香川」の野生生物保護研究員。昆虫を始めとする県内の生き物の調査や、絶滅危惧種をまとめたレッドデータブックの編集を行う。

 週末は、主に子どもを対象とした昆虫の観察会などを通じ、自然の大切さや、小さな生き物にも生きている意味があることを伝える。

       ■ □ □

 寺の3兄弟の長男として、丸亀市に生まれた。幼い頃、母親はたくさんの本を見せてくれた。昆虫図鑑に載っていたアゲハチョウの美しさに魅せられ、友達と寺の境内や野山で昆虫採集に明け暮れた。

 父親からは、将来は寺を継ぐことを条件に、大学までは昆虫を学んでよいと許しをもらい、東京農業大の農学科に進んだ。

 大学時代は昆虫採集のフィールドワークに明け暮れた。足腰を使い過ぎたせいか大学院時代に左股関節を痛め、歩けなくなった。軟骨がすり減り手術も難しく、車いす生活を覚悟しなければならなかった。

 もう、虫を追いかけることはできない――。生きている意味がないと思い詰めるほど、追い込まれた。

 同じ頃、病気で入院していた父親が亡くなった。葬儀に参列していた知人が関東の名医を紹介。28針を縫う大手術を経て歩けるようになった。

 葬儀後に開かれた家族会議。再び虫を追いかけられる喜びとともに、父の後を継ぐことへの迷いが頭をもたげていた。幼少時、いつも一緒に昆虫捕りをした弟が「兄貴の好きなことをしてほしい。寺は心配するな」と継いでくれることに。

 「濁っていた空が、きらきらと輝いて見えた。弟には感謝の気持ちでいっぱいでした」

       □ ■ □

 後日、亡くなった祖父の部屋を整理していたところ祖父が書き残した紙が見つかった。そこにはこう書かれていた。

 「(慶一は)自然や生き物を通して仏の道を伝えることになるだろう」

 自然との共生は、仏教の教えにも通ずる――。

 不思議な縁を感じた。幼い頃に仏道の修行を付けてくれた祖父は、見通していてくれたのか。寺を継がない負い目は消えていった。

 大学院を修了後、5年間東京で働き、香川へUターン。2014年から現在のNPOに所属した。昆虫観察会で子どもに親しみを感じてもらうため、かぶり物をする「虫むし博士」のスタイルを作った。

       □ □ ■

 香川には県立の自然史博物館がない。捕獲し、作成した生物の標本の保管場所がなく、他県に預かってもらわざるを得ない状況だ。そのため、閉校した旧琴南中学の校舎を利用して、標本や資料の保管を進める。いずれは生き物に興味を持つ人が集うサロンを作りたいと考えている。

 昆虫は自然環境の影響を大きく受けるため、微妙な変化で数が増減したり、絶滅したりしてしまう。

 「昆虫を知ることは自分たちが生きる環境を知ること。昆虫を通して自然への愛を育んでほしい」。そう願っている。(近藤誠)

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