――柏田さんが自然を被写体に作品制作をするようになったきっかけを教えてください。
僕は、自然に囲まれた郊外出身なんです。子どもの頃によく遊びに行った祖父母の家は琵琶湖の目の前にあり、高校時代は宮崎の田舎で過ごしました。そんなふうに、ずっと自然の近くで生活をしてきたことが大きいと思います。
――留学していらしたオーストラリアでの生活にも影響されていますか?
渡豪は、今に至る大きな影響があります。現地で街と自然、人と自然とが本当の意味で共存している様子を目の当たりにして、それを撮りたいと思い、本格的に写真家を志しました。
僕が留学していた当時から、オーストラリアでは森林火災は珍しくなかったのですが、日本でも大きく報道された2019年から2020年にかけての大規模な火災が、写真家としてのひとつの転機になったと思います。思い出の地でもありますし、駆り立てられるように向かった現地で撮影した写真がザ・ノース・フェイスの方の目に留まり、広告で使わせて欲しいとオファーを頂いたんです。これを機に、ザ・ノース・フェイスが協賛した2020年のイベント「THINK SOUTH」に合わせた展示、そして「CAMP」などのコラボレーションがスタートしました。
――カメラを通じて自然に対峙する時、心がけていることは?
まずは心を無にして、何も考えずにその場に立つ、ということでしょうか。一度、無になって自然を感じて、そこから改めて、じっくり自然と向き合ってみる。そうすれば、聞こえてこなかったいろんな音が聞こえるし、視界が変わるんです。
もちろん自然が相手だと、こういうのを撮りたいと思って行っても実際には撮れないことも多い。大雨が降ることだってあるし、そううまくはいかない。最近、アーティストインレジデンスで屋久島を撮影してきたんですが、いろいろ考えて試してみても失敗するわけで、でも、その失敗から何か思いもよらなかったものが生まれたりする。そうした発見が、また刺激になります。
――柏田さんの作品は自然を捉えているけれども、同時に常に人間の存在を感じさせます。自然と人間との距離のようなものを考えさせる作品というか。
そうですね。最近は特に、いかにありのままの自然の中に自分を介在させていくか、ということに興味があります。自然に介入している自分の存在がある、という視点を大切にしているんです。と同時に、自分の作品にも自然に介入してもらう、自然に関与してもらう作品制作にも挑戦しています。それらは相互に影響しあっていると思います。
――人の存在を感じさせる自然を切り取った作品、あるいは、自然の介入を許した作品。いずれにしても、柏田さんの作品は、自然の美しさに対する単純な賛美でもなければ、人間の営みによって引き起こされる環境破壊に対する直接的な警鐘でもない。柏田さんの作品を見る人に、どんなメッセージを受け取ってもらいたいと考えていますか?
僕はジャーナリストではないので、たとえばオーストラリアで大規模な森林火災が起こっても、すぐに現地に駆けつけて撮影できるわけではありません。それは報道の仕事です。でも、自分が子どもの頃に比べて大雨が明らかに増えているとか、異常気象が頻繁に起こっていることは肌で感じています。
先日、タイのバンコクに行って船に乗ったんですが、船の上にゴミ箱はなく、なのに売店では食べ物が売られている。だから乗客は船上で飲食した後、食べ物の包み紙などを、平気でそのまま川に捨てたりするんです。めちゃくちゃすぎて、こんなんじゃ変わるわけがないと憤る自分がいる一方で、先進国に住む自分の視点からだけで問題を捉えたり、批判することはできないわけです。そういう世界なんだってことは理解した上で、それでもどうにか自分の作品を通じて見る人に気づきを与えたい、というのが、僕の写真家としての願いです。
大きく世界を変えるのは難しいかもしれませんが、自分の身の回りにある目の前の問題に気づいたり、それについての対話が生まれたら嬉しい。それが作家としてのモチベーションですね。
――一方で、「CAMP」プロジェクトもそうだと思いますが、コマーシャルな仕事というのは、モノを売るという行為など何らかの経済活動を支援する取り組みになるわけですよね。そして、そうした人間の経済活動が、自然に負の影響を与えているという事実がある。その矛盾に対するジレンマや葛藤に、どんなふうに対処しているんでしょうか。
新しいものを作るという行為を僕は否定するつもりはありません。でも、やはり作って終わりで、その後のことに責任を持たないというのは違う。新しいものを作るなら同時にリサイクルのことを考えるべきだと思います。
ただ、本当の意味での自然と人間の共存を模索し、持続可能な方法は何かを探っていくためにも、まずは自然を知るという体験がすごく大切なんだと思っています。
――「CAMP」の撮影では、事実、モデルを含むスタッフ全員と「自然を体験する」ことで、作品にリアリティを持たせることを重視されているそうですね。
僕は、自然を撮る以上、嘘をつかないことが大切だと思っているんです。モデルと一緒に実際にフィールドの中で撮影するので、そこにいる誰もが、自然に向き合わざるを得なくなります。山に入れば携帯電話は圏外だし、お風呂にも入れない。撮影中は、どこかで必ず雨が降ってびしょ濡れにもなる。
でも、モデルのみんなもそれをすごく楽しんでやってくれる。それは、新しい自然を知って何かしらの気づきや発見を得る喜びがあるからだと思うんです。そういうことが大事だし、それが僕の考える「嘘がないこと」です。
――柏田さんは、「CAMP」の先に、どんな未来を望みますか?
撮影が終わって山を下りれば、モデルも僕を含めたスタッフも皆、すぐ携帯の電源入れてSNS見たりするわけです(笑)。でもそれでよくって、何事もバランスが大事。僕自身、まだ道半ばですし、今、ようやくやりたいことが形になってきた段階です。
ともかく、そうして撮影した写真を見た人が、「キャンプやってみたいな」と感じて実際に行ってみて、自然を体験し、自然への理解を深め、それがキャンプ後の日常生活にも還元されていく。そうした行動変容につながる循環が生まれたら、それ以上に嬉しいことはないと思っています。
THE NORTH FACE CAMPで自然と人を追究する写真家・柏田テツヲインタヴュー Presented by THE NORTH FACE | ARTICLES - IMA ONLINE
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