「この人の考えは鋭いな」
「どうしてこんなにわかりやすく説明できるんだろう」
「初めてのことでもうまくこなせてすごい」
……と、思わず感心してしまうような人が、あなたのまわりにいませんか?
「頭のいい人」に憧れを抱く一方で、「自分にはそんな素質、全然ない」と諦めている方もいるかもしれません。ですが、頭のいい人の特徴を知り、自分の思考や言動を少し工夫することで、頭のいい人に一歩でも近づくことは可能なはず。
東大教授など識者らの見解を参考に、頭のいい人の特徴を4つご紹介しますので、ぜひそのヒントにしてください。
特徴1.「視点移動」がうまい
明治大学教授で教育学者の齋藤孝氏は、「頭がいい」ということを次のように定義しています。
頭がいいとは、視点移動ができるということでもある。物事を多面的、俯瞰的に見ることで、一面的なものの見方に囚われることなく、的確な判断が可能になり、無駄を生まない。
(引用元:齋藤孝(2014),『すぐに使える! 頭がいい人の話し方』, PHP研究所.)
物事を「多面的」に見るとは、さまざまな具体的特徴に細かく目を向けること。「俯瞰的」に見るとは、全体像を見ること。「視点移動」をするとは、細部にフォーカスしたり全体を見渡したりと見方を変えることです。(同上書籍よりまとめた)
たとえば「ウミウシ」という生き物について、ウミウシを知らない人に説明するとき、「要するにウミウシって、海のナメクジみたいなものですよ」と言えば、生き物全体を見渡したうえでの説明になります。「厳密に言うと、ウミウシにもマダラ模様があるもの、イボが生えているものなど色々あって……」と言えば、細部に分け入った、多面的な説明になるでしょう。
そんな、多面的・俯瞰的な見方を身につけるには、日頃の「話し方」に気をつけるといいと齋藤氏。具体的には、以下のような言葉を仕事や日常の会話のなかで意識的に使ってみましょう。(以下カギカッコ内引用元:同上)
- 「総括して言えば」で「全体像をまとめる」
例)統括して言えば、今日のプレゼンテーションはA社から好評でした - 「細分化すると」で「一部分にフォーカスする」
例)細分化すると、○○に関する質問にのみ解答できなかった点が課題です
「話し方が変われば思考様式が変わり、思考様式が変われば頭が変わる」、つまり「話し方を変えれば頭もよくなる」と、齋藤氏は言います。頭のいい人がもつ思考法を取り入れるために、ぜひ言葉の使い方を工夫してみてください。
特徴2. 素直に「マネ」をする
「頭のいい人」と聞くと、アイデアを生み出したり、初めての仕事でも独自の方法でうまくやれたりするような、オリジナリティの高い人をイメージするかもしれません。ですが、オリジナリティが高くなければいけないということでもないようです。
電子掲示板「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」創設者として知られる実業家のひろゆき(西村博之)氏いわく、「うまくやっている人の方法をパクることなしに、独学なんてものは不可能です」。そのうえで、「オリジナル性で才能を発揮する必要なんてありません」と述べています。(引用元:東洋経済オンライン|ひろゆきが「ひたすらパクり続けて」と言うワケ)
たとえば、社内システムのマニュアルづくりを初めて任されたとします。このとき「自分のやり方で、オリジナリティあふれる資料をつくろう!」と考えたら、どうなるでしょうか。余計な説明が増えたり、入れるべき説明が抜けたりして、失敗する可能性も考えられるでしょう。過去の成功例に基づいていないからです。
それよりは、会社のクラウドに保存されている過去のデータや、ビジネス書で紹介されているフォーマットなど、まずは先人の方法をマネするほうが、わかりやすい資料をつくれる確率は高まるはず。オリジナリティを加えるのは、そのあとでよいのです。
頭のいい人は、独自のやり方にこだわることなく、素直に成功者のマネをしている――そんなことがわかるエピソードもご紹介しましょう。
『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』などの著書をもつ現役東大生作家の西岡壱誠氏は、「高校3年生のときの偏差値が35で、東大に合格するまで2浪した」経験の持ち主。「自己流」で勉強していた西岡氏は2浪が決まったとき、こんな行動に出たそうです。
「ノートを見せてくれ」「どんなふうに勉強しているのか教えてくれ」と、周りにいる頭のいい人たちや東大に合格した友達に、勉強法の「型」を聞きまくったのです。
そうして「頭のいい人たちのやっていることを見様見真似で実践」した結果、大幅に成績を上げ、東大に合格できたのだと言います。(引用枠およびカギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|東大生が推薦!「頭の良さの基礎」をつくる5冊)
「車輪の再発明」という言葉もあります。すでに発明されている「車輪」という道具を、またゼロから発明し直すのは時間のムダ。もちろん盗用や剽窃は絶対に避けるべきですが、先人の知恵をマネる “素直さ” も、頭のいい人の条件のひとつなのです。
特徴3.「抽象化」「具体化」がうまい
頭のいい人がしている考え方を、もっとのぞいてみましょう。
東京大学大学院教授で経済学者の柳川範之氏は、頭のいい人がしている頭の使い方として、
- 「単なる知識に終わらせるのではなく、そこから何かを汲み取ろうと」すること
- 「世の中のニュースを自分の身近な世界に当てはめたり、自分に引きつけて考える」こと
を挙げています。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|頭のいい人とさほどでもない人を分ける決定打)
そして、そうした「考える力を高めていくには、『具体』と『抽象』の双方向のトレーニングが大事」だとし、以下のように説明しています。
「具体→抽象」というのは、絞ったジュースをいったん濃縮すること。そして、「抽象→具体」というのは、また水分で薄めて還元することに当たります。この2つの作業を繰り返すことが、思考を高めていくには欠かせないのです。
(引用元:同上)
筆者も実際に、抽象化と具体化をやってみました。題材にしたのは、芸人の志村けんさんのエピソード。志村さんは、大ヒットコント番組『志村けんのバカ殿様』をつくる際、ゲームや大仕掛け、着ぐるみなど、なるべく多様なパターンのコントを散りばめることを心がけていたそうです(志村けん自伝『変なおじさん【完全版】』より)。
このエピソードから得られる教訓を、下図のように「抽象化」し、ビジネスシーンに「具体化」すれば、たとえばプレゼンをおもしろく魅せるためのヒントを得られるかもしれません。
(画像は筆者が作成した)
抽象化・具体化を使えば、お笑いという一見ビジネスとは遠そうな事柄からさえ、有益な学びを取り出せるのだということがわかりました。
柳川氏は、抽象化と具体化を「無意識の習慣にできるところまで徹底できると大きな武器に」なると述べています(引用元:同上)。
何かをインプットするときは、それを抽象化・具体化し「自分のことに置き換えられないか?」と立ち止まって考える――この習慣によって、頭のいい人にきっと近づけるはずです。
特徴4. 考えることが「好き」
「じつにおもしろい」とは、大ヒットドラマ『ガリレオ』シリーズの主人公・湯川学の名言としておなじみ。また、かの名探偵シャーロック・ホームズも、謎に出会うとワクワクし、大喜びで推理を始めます。
フィクションの例に限らず、頭のいい人は得てして考えることを好むもの。前出の柳川氏も、次のように提言しています。
おもしろいと思える方向に頭を使っていけば、それがさらに考えることにつながり、能力も身についていくという、良い循環ができてきます。
(中略)
考えることはけっしてつらいことでも小難しいことでもなく、楽しいことなのです。
(引用元:東洋経済オンライン|頭のいい人と平凡な人で違う「頭の使い方」の差)
つまり、考えることを楽しむ人は、進んで頭を使う。その結果頭が鍛えられ、さらに賢くなっていく——という好循環が生まれるということです。
さらに脳医学者の瀧靖之氏も、以下のように指摘しています。
好きだと思うとストレスが減り、脳は本来の機能を伸び伸びと発揮する。また、海馬の近くに位置して感情を司る扁桃体(へんとうたい)が、海馬の脳細胞に影響を与え、記憶の定着を強めます
(引用元:NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法)
要するに、学びを楽しむだけで、脳のパフォーマンスが高まるのです。
「つまらないな」と退屈な気持ちで日々の業務をこなす。「勉強なんかしたくない」と嫌々ながらテキストを開く——こんなふうに考えていては、脳は力を発揮することができません。当然「頭のいい人」にはなりえないでしょう。
頭のいい人に近づくには、考える・学ぶといった知的行為をシンプルに「楽しむ」ことが大切なのです。何かについて考えるとき「おもしろい!」と自然に言えるといいのかもれませんね。
***
以上4つのことを日頃から心がければ、「頭のいい人」に近づけるかも。ぜひ仕事や日常生活のなかで試してみてください。
(参考)
齋藤孝(2014),『すぐに使える! 頭がいい人の話し方』, PHP研究所.
ひろゆき(2022),『頭の悪い人でもゼロからわかる! 頭がよくなる方法見るだけノート』, 宝島社.
東洋経済オンライン|ひろゆきが「ひたすらパクり続けて」と言うワケ
東洋経済オンライン|東大生が推薦!「頭の良さの基礎」をつくる5冊
東洋経済オンライン|頭のいい人とさほどでもない人を分ける決定打
志村けん(2002),『変なおじさん』, 新潮社.
東洋経済オンライン|頭のいい人と平凡な人で違う「頭の使い方」の差
NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。
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