自動運転技術の研究が進展している。特定条件下で運転を完全自動化する自動運転「レベル4」の事業化に向けて自動車メーカーによる車両の開発とともに各地で実証試験も活発化している。自動運転の普及には道路インフラの整備が不可欠で政府も環境づくりに力を注いでいる。高齢化やドライバー不足など交通をめぐる課題が浮上する中、移動のニーズを満たす解決策となるか。(編集委員・村上毅、同・政年佐貴恵、同・板崎英士)
日産自動車は横浜みなとみらい地区と福島県浪江町で自動運転の研究に取り組む。横浜での実験では電気自動車(EV)「リーフ」をベースにカメラやレーダー、高性能センサー「LiDAR(ライダー)」など計30個のセンサーを搭載。半径150―160メートルにある車両や自転車、歩行者、信号などの挙動を予測して高精度地図と照らし合わせて移動を判断する。一時停止や直線での加速、対向車両や歩行者を確認しての右折など運転手が操作しているかのような自然な運転ができる。
2024年度中にミニバン「セレナ」をベースにした車両で走行実証実験を開始し、25―26年度に最大20台の車両を運行し、日常的な自動運転サービスを提供する。27―28年度には地域拡大と安全性を検証し、オンデマンドの乗り合いシャトルとして有償サービスで提供したい考えだ。土井三浩常務執行役員は「自動運転しか解がないというところもある」と指摘し、「自動運転の機運を盛り上げたい」と力を込める。
ホンダは研究開発子会社の本田技術研究所(埼玉県和光市)を通じ、協調人工知能(AI)「ホンダCI」を搭載した超小型モビリティーの自動走行技術の実証実験を茨城県常総市で進めている。搭乗型の「CiKoMa(サイコマ)」は、通常自動運転で使われる高精度地図を必要とせず車両自らが周辺環境を認識しながら自動走行する。歩行者や車両など周辺の状況を把握し潜在リスクを予測。適切な走行速度や走行可能な領域を素早く判断する。「事故の多くはリスクの見落としによるものが多い。見落としを減らせば事故も軽減できる」(本田技術研究所)。歩行者と車が共存するエリアでの自動走行や一般車両との譲り合いによる交差点の自動通過を実現している。ホンダでは米ゼネラル・モーターズ(GM)と国内で自動運転タクシーサービスも計画している。
新興・大手協業、海外勢と競合
自動運転では協業も進む。自動運転システムの開発を手がけるティアフォー(名古屋市中村区)にはトヨタ自動車などが参画するファンドが出資するほか、いすゞ自動車やスズキも出資を決め、連携を加速している。
海外では米グーグルの持ち株会社米アルファベット傘下の米Waymo(ウェイモ)が自動運転車両によるライドシェアサービスを拡大し、中国IT大手百度(バイドゥ)は完全自動運転タクシーを実用化し、湖北省武漢市内に1000台を配置する計画だ。社会実装に向けた競争が激化している。
データ連携、経産省などフォロー 地域MaaS支援
自動運転レベル4の社会実装には、技術だけでなくサービスの確立が不可欠だ。経済産業省と国土交通省がまとめた「モビリティDX(デジタル変革)戦略」では、各種データ連携などによるサービスの早期実用化と技術の高度化に向けた方針が打ち出された。
両省は21年に自動運転開発・実装プロジェクト「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoADtotheL4)」を始動。さらに25年度までの新たな自動運転移動サービス実現に向け、事業者や関係省庁の連携を促進するため、同プロの下に「レベル4 モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を23年10月に設置し、活動を始めた。
経産省は23年度補正で無人自動運転システムの開発、実証事業に27億円の予算を計上。自動運転サービス用の車両や自動運転トラックの開発を加速し、幅広いサービスの実用化につなげる。また19年度からMaaS(乗り物のサービス化)支援も手がけ、先進的な取り組みを実施する地域を選定し、実証を進めている。24年度は静岡県焼津市や島根県大田圏域など6地域を選定。駅やバス停がない地域で生活拠点を停留所とするようなサービス実証を行う見通しだ。
国交省、26年度に無人タクシー
国交省は交通事故の減少やドライバー不足に対応するため、特定条件下で完全自動運転を行うレベル4の普及拡大を目指している。23年4月に道路交通法を改正しレベル4を解禁、まずは一般道約100カ所での計画策定・運行を、25年度には全都道府県での通年運行の計画策定か実施を、26年度初頭には無人ロボットタクシーの導入を目指している。
無人自動運転サービスは地域の受け入れ体制や審査手続きの迅速化、事業採算性の確保などが課題。先行事例の横展開や車両の導入コスト低減なども必要だ。地域限定型の無人自動運転移動サービスを促進するため、これまで11カ月かかっていた審査期間を2カ月で完了できるよう審査内容のデジタル化や伴走型の支援を導入する。
さらに自動走行車が事故を起こした際の責任を明確にするため、独立した事故調査機関を設置、個別の原因調査にとどまらず、人工知能(AI)が学習し、事故から自動制御の性能や安全性向上につなげる。
私はこう見る マークラインズ取締役コンサルティング事業部管掌・浅田浩之氏
米国と中国は自動運転レベル4の商業運航に移行し、一歩先を行く。日本はホンダがレベル3を世界で初めて実現するなどレベル3までの取り組みは早かった。だが、レベル4では後れている。
車が開発できても法制化や受け入れる土壌がなければ広がらない。米中は初めからレベル4を目指し実証試験を積み上げ、実用化してきた。スピードが速い。日本では「石橋をたたいて渡る」ように一歩一歩確実に進もうとしている。
高齢化など社会課題もあり日本でも自動運転のニーズは高い。交通のラストワンマイルなどでバスを中心にレベル4が進むのではないか。ただ絶対に事故を起こしてはならないという風土が日本の一番難しいところだ。
自動運転は人為的ミスを大幅に減少でき、安全性は高められる。多く走行したもの勝ちで運転するほど進化する。国内で実証が活発化しているが早く実用化に移行するとともに社会の受容性を高めることが重要だ。(談)
【関連記事】 日産が新しいクルマ作りで必ず頼りにする機械メーカー
日産は自然な運転・加速、ホンダは潜在リスク予測…自動運転「レベル4」拍車 - ニュースイッチ Newswitch
Read More
No comments:
Post a Comment