
3月中旬の夜、古座川町の国天然記念物「一枚岩」(高さ100メートル、幅500メートル)の岩肌に、縦20メートル、横40メートルの色鮮やかな映像が映し出された。地元で道の駅を運営する田堀穣也さん(34)らが「地域を盛り上げよう」と企画。新型コロナウイルス禍で観客は呼べなかったが、インターネットでライブ配信し、多くの反響が寄せられた。
「一枚岩は町のシンボル。人と自然が心地よくつながるまちづくりをここから進めたい」。そう力を込める。
一枚岩が生まれたのは約1400万年前。大規模な火山活動でマグマが地表に噴出し、「熊野カルデラ」と呼ばれる巨大なくぼみが生まれた。長い年月の間に隆起と浸食が繰り返され、カルデラ南側の地下部分が、一枚岩や
町を代表する観光名所だが、南紀熊野ジオパークガイドの神保圭志さん(68)は「世に知られるようになってから日は浅い」と話す。享保10年(1725年)、8代将軍・徳川吉宗の命を受け、全国で薬草を探していた役人が「
とはいえ、一枚岩の対岸に道路ができたのは1930年代。それまでは川舟での往来が主流の秘境だった。神保さんは「50年ほど前は未舗装で土ぼこりが舞っていた。川べりはスギ林で一枚岩は見えなかった」とし、「当時、林を分け入って一枚岩を初めて見た人は、その大きさにさぞ驚いたことでしょう」と想像する。
地元には、1匹の犬が魔物を追い払った「守り犬伝説」が残る。岩を好物とする魔物が、現在の那智勝浦町浦神から岩を食べ尽くしながら一枚岩までやって来た。魔物は、今まで見たことのない大盛りのごちそうに我を忘れ、かぶりつこうとしたが、犬にほえられて逃げ帰ったとの物語だ。
この「守り犬」のシルエットが4月と8月の数日間、一枚岩に現れる。夕方の数分間、山の影が2本の耳を立てたような犬の姿をつくる現象で、大勢の写真家らが訪れる。
近づき過ぎると写真に納まらず、遠くからでは伝え切れない。そんなスケール感が一枚岩の魅力だ。3月に映像を映すイベントを開いた田堀さんは「実際に見たら、その大きさを体感してもらえる。ここで働いて、改めて『えらいとこやな』と感じますね」。
10月には「仕切り直し」のイベントとして、大勢の客を集めて本格的な映画を上映する構想を温めている。「その頃には新型コロナがきっと終息している」。そう願って準備を進める。(大場久仁彦)
人と自然つなぐシンボル - 読売新聞
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