世界自然遺産への登録が決まった鹿児島県奄美大島と徳之島。この両島にのみ生息するのが、「アマミノクロウサギ」。100年前の1921年、瑠璃色の羽を持つ鳥ルリカケスなどとともに天然記念物になり、のちに特別天然記念物に指定された。旧内務省の報告書は「珍稀ナル兎ニシテ琉球孤島ノ中奄美大島及ビ徳之島ニ限リ産ス」と書いている。
一般的なウサギと違い、毛は褐色で耳も足も短いのが特徴だ。ずんぐりした姿通り、動きはのろいらしいが、島特有の急な斜面の登り降りには、短い足が便利だったようだ。両島だけで生き残り、原始的な姿から「生きた化石」とも言われる。
奄美大島に住む森直弘さん(72)が夜、道路脇で出会ったのは子ウサギだった。大人のウサギだと人に気づいてすぐ逃げるそうだが、この子ウサギは周囲に目をキョロキョロ。「エサを探しにきたのでしょうか、遠くから撮影させてくれました」
ハブに襲われないよう、見通しのいい道路でエサを食べる姿も見られた。ウサギには珍しく鳴き声も聞こえ、「ツィー、ツィー」という甲高い音は、仲間同士のあいさつや外敵への威嚇らしい。
他にも、金の斑点まじりの体色から「日本一美しいカエル」と言われる奄美大島の固有種「アマミイシカワガエル」や、長いくちばしが特徴の琉球列島の固有種「アマミヤマシギ」の姿も。世界自然遺産らしい多様性を垣間見ることができたそうだ。
ただ、希少な生き物は長らく苦難に直面してきた。特にアマミノクロウサギは人間に翻弄(ほんろう)された。戦後、森林伐採ですみかが消え、ハブ駆除のため放たれたマングースやノネコに襲われた。
森の回復やマングース駆除などが進み、生息数は戻りつつあるようだが、今度は夜行性のため夜道に飛び出し車にひかれる「ロードキル」が相次ぐ。両島でひかれて死んだアマミノクロウサギは昨年、2000年以降最多の66頭だった。
今後、観光客が増えていく中での課題の一つもロードキル対策だ。「夜の観察ツアーに向かう車両の台数制限や、ガイドの質の向上などを進めることが必要だ」と話すのは、ユネスコの諮問機関IUCN(国際自然保護連合)の日本委員会事務局長を務める道家哲平さん(41)。 繁殖力の強い植物などの外来種やノネコへの対策も欠かせない。
「固有種の割合が高く、影響を受けやすい島の環境を、観光と両立させながら守っていくことが求められている」(石倉徹也)
珍稀ナル兎は「生きた化石」 世界自然遺産だけに生息 - 朝日新聞デジタル
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