収穫、料理体験 大手旅行会社も視察
過労でうつ状態になって会社を退社した後、医師になり、金沢医科大リハビリテーション医学科(石川県内灘町)で勤務する人がいる。富山市新根塚町の田辺望さん(37)だ。病院だけのリハビリに限界を感じ、金沢市の山あいで農家民宿を始めた。専門医の指導で、野菜の収穫やキャンプなどを楽しみながらリハビリできる。 (城島建治、泉竜太郎)
田辺さんは早稲田大卒業後、コンサルタント会社(大阪市)に就職したが、過労でうつ状態になり、八カ月で退社した。土砂降りの中、会社の外で、取引先の社長に土下座したことを覚えている。「正常な判断ができないほど追い詰められていた」
退社後、「人のために何かしたい」と医師を目指すことに。猛勉強した結果、富山大医学部に合格できた。二十五歳だった。
金沢医科大では病気や事故で手や足を十分、動かせなくなった人の機能回復に努めるが、リハビリ期間は半年が目安。病院だけでリハビリをする仕組みに疑問を感じた。
四年前、患者と一緒に奥能登地方の自然に触れるイベントを企画。自然を楽しむことが、そのままリハビリになると考えた。
その患者の紹介で三年前、金沢市福畠町の古い民家を訪ねると「これだ」と直感した。金沢駅から車で二十分ほどの山あいの集落は、美しい自然に囲まれている。民家近くにはニワトリが飼育され、約五千平方メートルの野菜畑が広がる。畑に入ると土に足をとられ、簡単に前に進めない。でも、土の中を歩いたり、野菜を収穫してみんなで料理することが、楽しみながらリハビリできる方法だと感じた。
患者と相談して農家民宿としてオープンさせることを決意。二〇一九年に民宿を経営する一般社団法人を地元農家、料理人、患者ら八人で設立し、二一年十月に「ととのや」として営業を始めた。
築四十年の古民家は木造二階建てで、約三百五十平方メートル。客室は一階に二部屋用意し、計七人が泊まれる。宿泊者と一緒に野菜を収穫し、おしゃべりしながら料理して食べている。これまでに金沢市内を中心に十人が宿泊した。宿泊代は現在、素泊まり五千円、食事付きで八千円。
病院のようなリハビリをするわけではないが、山道を歩いたり、畑で野菜を収穫するなどの活動がリハビリに役立つとして、体験できるメニューを充実させる。目指すは「旅するリハビリ」の普及だ。人間ドックを兼ねて旅行するメディカルツーリズムはあるが、リハビリを目的とした宿は全国的に知られていない。大手旅行会社(東京)が注目し、視察に訪れている。
農家民宿 農業や漁業などを営む人が経営する宿泊施設。地域で生産した農林水産物を食材にした料理を味わってもらうほか、農業や漁業などを体験してもらう。都会に住む人などに利用してもらうことで、農山漁村の活性化につなげるのが目的。2005年に農山漁村余暇法が改正され、基準を満たせば、登録できるようになった。
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