国立西洋美術館(上野公園)で6月4日に開幕する「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ」展で、音声ガイドナビゲーターを務める声優の駒田航さんにインタビューしました。「鑑賞者の邪魔にならず、かつ見た絵の記憶が残るナレーションを心掛けた」という駒田さん。ピアニストの福間洸太朗さんが曲をセレクトし、自ら演奏した音声ガイドのBGMと、駒田さんの語りとのマッチングも絶妙のようです。(聞き手 読売新聞美術展ナビ編集班 岡部匡志)
レオナルド・ダ・ヴィンチに憧れた小学生
Q 「自然と人のダイアローグ」展についての印象を聞かせてください。
A 「自然と人」というテーマは、アートで比較的扱われることが多いと思います。今回の顔触れでいうと、モネやゴッホやリヒターなど共通項が多いメンバーとは言えないですが、それぞれ多角的なアプローチで自然を描くアーティストを集めています。誰もが知っている名前も多く、自然と興味を持ちました。
Q 駒田さんの普段の暮らしでアートはどのような位置を占めていますか。
A アートというと、ドイツで暮らしていた小学校高学年の時、学校のイベントで、「過去の偉人になりきってその人のプレゼンをしなさい」という課題が与えられた事を思い出します。クラスメイトは過去の偉人たち、政治家や音楽家に哲学者など様々な人物を選んでましたが、私はレオナルド・ダ・ヴィンチを選んで話をしました。
Q 小学生にはハードル高いですね(笑)
A 業績がすごくて、話すことが多すぎますね(笑)子どもの頃から、なぜか産業革命に至るまでの昔の時代が好きで、ルーブル美術館や大英博物館にも連れていってもらいました。名作と言われる絵画に触れることで、そうした作品は絵の大きさなどに関係なく目が離せなくなる魅力がある、と感じました。レオナルド・ダ・ヴィンチも自然と興味を持つようになり、彼の作品の中で一番好きで、そのプレゼンの時も力説したのが「最後の晩餐」のことです。描かれてから何百年も経つのに、いまだに構図や描かれた人物のことで考察が続きますよね。多くの人の興味を引いて、研究対象になってしまう。それは偉大だと思います。芸術や美術に詳しいわけではないですが、意外と触れる機会は多かったかもしれません。
ポール・シニャックにワクワク
Q 日本ではどうでしたか。
A 今回の会場である国立西洋美術館は何回か訪れていて、作品名はもうはっきりしないですが、ゴッホやモネなど、色彩を強く使う画家の作品が印象に残っています。お土産のはがきなんかも、そういう色味のものを選びますね。
Q それでは今回の「自然と人のダイアローグ」展は会場といい、絵のラインナップといい、ツボるところだらけですね。
A はい、すごくツボります(笑)。実物を拝見するのがとても楽しみで、中でも一番楽しみなのはポール・シニャックの《サン=トロペの港》です。

引きで見れば何が描かれているかは一目瞭然ですが、近づくと「これって点?」「どう描いているの?」と実に不思議な絵。実際に足を運べる美術館だからこそ、こういう絵のタッチが分かる良さがあると思います。
音声ガイド、独特の難しさ
Q 音声ガイドの仕事は、声優としての仕事にも得るものがありますか。
A 沢山あります。今回、ピアニストの福間洸太朗さんが自ら楽曲をセレクトし、演奏もした曲が音声ガイドのBGMに流れます。ナレーションがその音楽に乗せて聴こえてくる方もいれば、逆にナレーションを聞いたうえで、音楽が後から頭に入ってくる方もいるかもしれません。どちらから入るかで、ずいぶん印象が違うと思います。そうしたこともかなり考えて話をしています。
今回、日本を代表する美術館で行われる本格的な展覧会ということもあり、当初はかなりきっちり、がっちりと話をするイメージで臨むつもりだったのです。それが現場の方々と話をする中で、もう少し柔らかく、マイルドに読むことなりました。実際のピアノの音を聴いていると、その方が合うなと僕も感じました。
Q お話を聞いて、音声ガイドの聴くのがますます楽しみになりました。
A 漠然としたテーマなのですが、絵に声を当てているのか、音に声を当てているのか、空間に文字の乗せるのか。個人的にはかなり異なるので考えるポイントです。絵を見ることに邪魔にならないナレーションがいいな、常々思うのですが、同時に、次の絵に行ったときに、前にみた絵の記憶がしっかり残っている音声でもありたいのです。そういう意味で、ただ原稿読むだけでは務まらない難しさはあると思います。
ゴッホとラヴェルと語り 絶妙の瞬間
Q 音楽とのコラボレーションはとても面白そうですね。
A 絶対に入り込めると思います。福間さんのピアノが本当に素晴らしいです。
Q ピアノに影響されて語りも変わりましたか。
A 影響を受けますね。ゴッホの《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》の時に、福間さんが選んだのはラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』で、これが絶妙です。

ゴッホはこの絵について、弟に向けた手紙の中で、鎌で麦を刈る人の中に死のイメージを見た、というのです。寂しい風景なのですが、それにも関わらずゴッホは手紙の中で「この死の中に何の悲哀もない」と言い切るのです。ところがラヴェルの音楽は、その言葉に悲哀を感じさせるような音がします。
ゴッホが口にしていることはもちろん真実なのでしょうけど、やはりそれを口にすることによって生まれてくる悲哀を感じさせる、音のチョイスが素晴らしかったです。夕日に当てられながら、この音楽を聴いて、この絵を眺めたら涙が出るんじゃないか、と思うぐらいの雰囲気があります。ぜひ聞いてほしいです。
Q 来場を楽しみにしているファンに向けたメッセージを。
A 絵のチョイスが素晴らしいですし、ガイドがなくても飽きはしません。ただ、福間さんの曲を聴くことで、絵が生まれた情景や、描かれた際の臨場感を感じると思います。私としてもそれに助けられて読めた部分もあります。知っている画家から入って、初めて知った画家もいると思うので、そこで「もうひとり好きな画家」を見つけるきっかけになったらいいと思います。(おわり)
(※音声ガイドは会場レンタル版が税込600円、アプリ配信版が税込730円・駒田航メッセージ付き)
駒田航(こまだ・わたる):声優。ドイツ出身。主な出演作に「アイドルマスター-SideM」古論クリス役、「ヒプノシスマイクーDivision Rap Battleー」入間銃兎役、「あんさんぶるスターズ!!」椚章臣役など。日本テレビ「news zero」ではナレーションを務める。そのほかカメラマンとしても活動。
福間洸太朗(ふくま・こうたろう):パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学にて学ぶ。20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝。これまでにカーネギーホール、リンカーンセンター、ウィグモアホール、ベルリン・コンツェルトハウス、サントリーホールなどでリサイタルを開催する他、クリーヴランド管、モスクワ・フィル、イスラエル・フィル、フィンランド放送響、ドレスデン・フィル、NHK交響楽団などの著名オーケストラと共演。CDは「バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ」(ナクソス)など、これまでに17枚をリリース。テレビ朝日系「徹子の部屋」や「題名のない音楽会」、NHK テレビ「クラシック音楽館」などにも出演。第39回日本ショパン協会賞受賞。
国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで |
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会場:国立西洋美術館(東京・上野公園) |
会期:2022年6月4日(土)~9月11日(日) |
休館日:月曜日、7月19日(火)(※ただし、7月18日(月・祝)、8月15日(月)は開館) |
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金・土曜日は午後8時まで) |
入館料:一般2,000円、大学生1,200円、高校生800円 |
※詳細情報は公式サイト(https://nature2022.jp)で確認を。 |
駒田航さん 国立西洋美術館「自然と人のダイアローグ」展で音声ガイド 「鑑賞の妨げにならず、かつ絵の記憶が残… - 読売新聞社
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