雨の多い季節を迎えた。
気象庁は今月から、短時間に集中豪雨をもたらす線状降水帯の予測情報の発表を始めた。最近この時期に毎年のように激しい雨が降り、人命が失われている。情報の適切な伝達と早めの避難で、被害を防ぎたい。
自然は災害を引き起こす一方で、防災・減災の役にも立つ。予算が限られるなか、もっと力を入れるべき政策の一つが、そんな自然本来の機能を生かした「グリーンインフラ」だ。
雨水の流出を抑える大規模な貯留施設や遊水地の整備から、芝生と土の公園、街路・屋上の緑化まで、手法はさまざまだ。欧米で導入が進み、持続可能な社会に欠かせないものとして日本でも注目を集めている。
国土交通省は19年に「グリーンインフラ推進戦略」を定め、官民連携の場を設けてモデル事業を具体化する方針を示した。今年4月には省庁横断で自治体向けの支援制度集を公表。公園整備やまちづくりに利用できる交付金などを紹介して、活用を呼びかけている。
一歩ずつ歩を進めているとはいえる。だが、同省の今年度のグリーンインフラの関連予算は約119億円にとどまり、5兆円を超す同省の予算規模からみればほんの一部だ。堤防やダムといった大規模構造物に頼る従来の治水政策から、発想のさらなる転換が必要だ。
樹木は森林の保水力を高めて斜面の崩壊を防ぎ、海岸林は高潮や津波の脅威を和らげる効果がある。大地は雨水を浸透させ、蓄える役割も果たす。自然を生かし活用する方向へ、大きくかじを切ってほしい。
そのためにも導入に前向きな自治体を増やすことが課題だ。
三重県いなべ市のにぎわいの森は、手つかずだった森を整備し、農園や雨水を利用したトイレなどをつくり、交流の拠点としてよみがえらせた。東京・池袋のイケ・サンパークは、旧造幣局の跡地を使い、井戸を使った給水施設や物資の集積機能を備え、一時避難場所としても利用できる防災公園だ。
こうした事例をもっとPRして、関心を高めてはどうか。
個人でできる工夫も広げたい。雨水を下水道に直接流さず、ゆっくりと地中にためる植栽空間「雨庭」を歩道わきなどにつくっている京都市では、貯留タンクを家庭に普及させるため、設置費用を補助している。容量が80リットル以上のタンクを雨どいにつなぐ方式で、同じような制度は京都府内20市町や横浜市をはじめ各地にある。
自然に向き合い、多角的・重層的な防災対策を深化させる。災害大国・日本が取り組むべき重要な課題の一つだ。
(社説)大雨と防災 自然の力をどう生かす:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
Read More
No comments:
Post a Comment