午前4時半。朝靄(あさもや)に包まれた森に巨人のようなシルエットが幾つも浮かび上がっていた。夜が明け空が白むと、独特の形状をした杉の木が周囲に姿を現した。幹をくねらせ今にも動き出しそうな木々が点在するのは、岐阜県関市板取(いたどり)の21世紀の森公園にある「株杉の森」だ。
杉は通常、1本の真っすぐな幹を伸ばすが、この森には幹が複数に分かれた「株杉」が約50本点在する。森の整備に携わった元関市職員、長屋雄二さん(69)によると、森では江戸時代ごろから建材として杉が伐採されていた。杉は切り株から複数の芽を出すことがある。その芽が成長し幹となり樹高が20~30メートルに達すると建材にしようと切り出す。その切り口から、また萌芽(ほうが)する。この繰り返しで独特の形になったとみられている。
長屋さんは「これだけの数の株杉があるのは全国でもここだけ。多いものは、一株で10本以上の幹を持っている」と話す。
なぜ全国でもこの森にだけ多いのだろうか。
林業従事者の育成や森林の研究などを行う専門学校「岐阜県立森林文化アカデミー」の柳沢直教授は「気象条件と人々の利用方法、植物の性質が要因とみられる」と指摘する。
冬は雪深い土地柄。伐採する際には木材を滑らせて搬出しようと、雪の上に出た地表から2~3メートルの位置を切る。そのため高所で幹が枝分かれする杉が増えたようだ。また、この地域に自生する杉は、切り株から芽が出やすい特質を持っているという。
森は現在、観光資源として保存されているため、新たな伐採は行われていないが、大雪や強風などの影響で年々見られる株杉が減っている。関市では、今年度内に株杉の周囲に生えている普通の杉を試験的に伐採して日当たりを確保するほか、切り株から枝分かれして成長するかなどを調べる予定という。
人々の営みと自然の力が融合し、長い年月をかけて生み出した独特の景観。次世代につなぐ試みが始まっている。
(写真報道局 桐原正道)
【探訪・動画】「森の巨人」生んだ人と自然の営み 岐阜・関市「株杉の森」 - 産経ニュース
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