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Sunday, August 21, 2022

南アルプスユネスコエコパークとは? 「自然と人間社会の共生」に注目して南アルプスを訪れてみよう - 株式会社 山と溪谷社

「南アルプスユネスコエコパーク」という言葉を知っていたとしても、そもそもユネスコエコパークとは何かについて、どれだけの知識があるだろうか。そのキーワードは 「自然と人間社会の共生」。南アルプスの自然と人間社会の共生について説明する。

南アルプスは長野、山梨、静岡の3県10市町村にまたがる、東西約15km、南北50kmに及ぶ山岳地帯だ。その山岳地帯周辺の人々が生活する範囲までを含めた総面積302,474haが、南アルプスユネスコエコパークとして登録されている。

南アルプスユネスコエコパーク登録地域。総面積は302,474haにも及ぶ


私は現在、静岡市の職員として、ユネスコエコパークを推進する仕事をしているが、この職に就くまでユネスコエコパークの存在をきちんと認識していなかった。恥ずかしながら、ユネスコとは世界遺産の登録をするための機関だと思っていたので、世界遺産以外にもユネスコに認められた制度があるということに驚きを感じた。

私と同じように、ユネスコエコパークってなに? と疑問に思っている山好きは多いのではないだろうか。今回は、そんな疑問について取り上げていきたい。

まずは、ユネスコという機関について簡単にまとめよう。先にも述べたように、ユネスコと聞くと世界遺産を連想する方も多くいると思う。しかし、なにも世界遺産の登録認定だけがユネスコの仕事ではないのだ。簡単に説明すると、ユネスコとは教育と科学、文化の分野について取り扱う、国連の機関のひとつである。

世界遺産の登録・保護についての活動が有名ではあるが、その他にも、識字率の向上や、文化多様性条約の採択、教育における男女差別の解消など、国連の教育、文化、科学関連の発展や向上につながる活動を行っている。

では、ユネスコエコパークとはどういったものなのか。一般的な説明としては、自然環境の保全と人間の営みの両立に取り組んでいる地域としてユネスコに認められた世界的な地域、となる。もう少しわかりやすくいうと、「自然と人間社会の共生がバランス良く行われている地域」という説明になる。


ユネスコエコパークには、

①保存機能=守る
②学術的研究支援=学ぶ
③経済と社会の発展=暮らす

という、3つの機能がある。

これは、どれかだけが優れていればいい、というものではなく、それぞれが影響し合い、機能を高めることで、ユネスコエコパークを相互に強化する役割を持っている。この目的のために、ユネスコエコパークは3つの地域に構成されている。それが、

①自然を守る『核心地域』
②自然を学ぶ『緩衝地域』
③自然と暮らす『移行地域』

の3つである。

ユネスコエコパークの目的は「自然と人間社会の共生」

次に、世界自然遺産とユネスコエコパークとの違いについてお話ししよう。

世界自然遺産も、ユネスコエコパークも、大切な自然を守る、というところは共通している。しかし、世界自然遺産は自然という普遍的価値を将来にわたって守ることに主眼が置かれている。

一方、ユネスコエコパークの目的は、自然と人間社会の共生である。豊かな生態系や生物多様性を保全し、自然に学ぶこと。そして文化的にも、経済・社会的にも持続可能な発展を目指す取り組みが、ユネスコエコパークなのである。

最後に、南アルプスユネスコエコパークについてまとめよう。2014年6月に、南アルプスがユネスコエコパークに登録されてから、今年で8周年を迎えた。3,000m峰が連なる環境下で、キタダケソウなどの固有種・希少種が多く生息していること。また、ライチョウなど、南アルプスを生息の南限とする種も多くいること。富士川水系、大井川水系及び天竜川水系の流域ごとに、古くから伝統的な習慣、食文化、民俗芸能など個性的な文化圏が発展し、現代に継承されてきたことなどが評価されている。

「高い山、深い谷が育む生物と文化の多様性」を理念に掲げ、古来は急峻な山岳地系により、交流が阻まれてきた10の市町村が、ユネスコエコパークとして結束している。

雄大な自然だけが、南アルプスユネスコエコパークではない。周辺の人々の生活も含めてエコパークとなっている ※写真は赤石岳

自然や地形だけではなく、生活や文化にも注目!

南アルプスユネスコエコパークの静岡市域の核心地域には、ライチョウなどの氷河時代の生き残り「氷河遺存種」が生息し、氷河の影響を受けて形成されたカールなどの氷河地形、崩壊地形などの独特の景観を有する。

氷河遺存種のひとつ、登山者にはおなじみのライチョウ


緩衝地域では、高山植物の保護を担う次世代の育成を目指し、高山植物保護セミナーなどの環境教育や体験プログラムなどが行われている。

そして、移行地域には、約5,000年前からその地域に人が住んでいた証となる遺跡や、地域特有の神事、その地域で古くから栽培されてきた在来の野菜などの作物などが受け継がれている。

地域に受け継がれてきた在来作物


自然と私たちの暮らしは繋がっている。豊かな自然は、水や空気など、生きてくために必要なものを私たちに与えてくれている。その自然の元で、私たちは古くから暮らし、歴史や文化を育んできた。私たちにとって、南アルプスは、自然は、生命や文化の源であるのだ。

自然環境を保全すること。それとそこに暮らし、関わる人や地域を豊かにすること。このバランスを大切にすることが、将来にわたって南アルプスを守ることに繋がっているのだと思う。そして、それこそが、南アルプスがユネスコエコパークである理由なのだと感じる。

今回は、少し難しい話となったが、南アルプスユネスコエコパークへの理解を深めていただく機会となればうれしく思う。

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