奄美大島が世界自然遺産に登録されて1年。
島ではアマミノクロウサギを始め、貴重な生き物たちの保護が進められています。
しかし、世界遺産のエリアのすぐ外で、山が削られ続け、住民の暮らしのまでも脅かされている場所があります。何が起きているのか、取材しました。(鹿児島局 平田瑞季/大麻俊樹)
【世界遺産のすぐ外で、、】
7月に世界自然遺産登録から1年を迎えた奄美大島。その記念日には、島の貴重な自然をアピールする「世界遺産センター」も完成し、知事も出席して行われたオープング式典は祝賀ムードに包まれました。
しかし、その5日後。施設から車でわずか10分離れた場所では、開発業者による説明会の場で、住民が自然破壊への怒りの声をあげていました。
(戸玉集落の住民)
「破壊の象徴がこの場所なんですよ。片一方は自然遺産って浮かれてるけど土木事業の原資を運ぶための場所としてこの集落一帯は破壊された場所なんです」
「破壊の象徴」とまで住民が言う事態が起きているのは、奄美市住用町の戸玉集落です。
この集落の周辺では島の公共工事などのために1970年代から採石が行われています。世界遺産に登録された今も大きく山が削られ続け、世界遺産とはかけ離れた景色が広がっています。
戸玉集落の区長、浦口一弘さんはかつてはこの集落も美しい自然に囲まれていたと思い出しながら語ります。
(戸玉集落区長 浦口一弘さん)
「採石されている場所のすぐ奥は世界自然遺産のエリアです。その近くで山が削られている風景は、自然破壊そのものです。
この道路の近くには、かつて特別天然記念物のクロウサギが出てきていましたが、今はもう全然見ることが無くなりました」
【過去には避難勧告 でも今、新たな業者が】
採石は住民の生活にも危険を及ぼしています。2004年、採石が原因で集落の裏山に長さおよそ五十メートルの亀裂が発生。土石流の恐れがあるとして避難勧告が出され、住民は3か月もの間不自由な暮らしを余儀なくされました。
また同じ事態が起きるのではないかと不安を抱える住民は、県に対し採石の認可を取り消すよう繰り返し訴えてきましたが、その願いは今も届いていません。
それどころか今、新たな業者による採石の計画が浮上しています。先月31日に開かれた住民説明会で、開発業者は率直に切り出しました。
(業者の担当者)
「1回ご説明させていただいたうえで、みなさまのご賛同を得られれば山をとらせていただいきたいと思っております」
これに対し、長年の採石に耐え続けてきた住民の間からは、冒頭で紹介したような怒りの声が、次々と噴き出したのです。
(住民の女性)
「他の工事現場は工事が終わればそれで終わりですが、ここはずっと工事現場に40年以上暮らしているような状態です。
もう40年間も我慢して生きているんです。もうこれ以上、少しでもこの景色を変えてもらいたくないんです」
(住民の男性)
「奄美大島は世界自然遺産になりましたけど、この集落は公共事業の”負の遺産”の象徴なんですよ」
【続く県の認可 なぜ】
住民の強い反対にもかかわらず、なぜ県は採石を認可し続けているのか?
県庁の担当者に話しを聞くと、その答えは採石の認可基準などを定める採石法にあると言います。
採石法では次のような場合、県は認可してはならないと定められています。
▼他人に危害を及ぼす
▼公共の施設を損傷する
▼他の産業の利益を損ずると認められる場合
このうち「他人に危害を及ぼす」という項目について、県は直接的に「生命身体に危害を及ぼす」場合を指すと解釈しています。
そのため戸玉集落の周辺で、現在認可を出している採石現場については、2004年に亀裂が入った場所とは離れているとして、住民の「生命身体に危害を及ぼす」事例には「該当しない」と説明しています。
さらに法律上、採石の認可に住民の同意は必ずしも必要ないとも説明します。
(鹿児島県商工政策課 朝倉正二課長)
「採石法では住民の同意は定められているわけではありません。戸玉地区の方々からは騒音とか粉塵とか声が寄せられているというのはもちろん承知していますが、”他人に危害を及ぼさない”というのは一般的に生命身体に危害を及ぼすということになっています。
住民にそういった意見を十分に反映してほしいとありますが、法に定めている基準に抵触するような状態は起きていません」
県に訴えても住民の願いがかなわない状況に、区長の浦口さんは落胆の表情で話します。
(戸玉集落区長浦口一弘さん)
「結局はいくら反対しても県はもう書類さえ揃っていれば認可するという形でもうずっと40年以上そういう形で来ています。
誰かがケガしないと認可が止まらないのでしょうか。我々は先祖代々何百年ってここに住んでいるのに、なぜこの地区だけがこんな苦しまないといけないのでしょうか」
【取材終えて】
「この場所は公共事業の負の遺産の象徴だ」。住民説明会のなかで、集落に住む男性が発したこのひと言に、今回の取材のすべてが詰まっているように感じました。
たしかに戸玉集落での採石によって作られたコンクリートを使って、奄美大島では道路や港などの公共事業が進められ、島の人たちの暮らしが、この40年あまりで大きく改善してきたのも事実です。
ただその便利さは、戸玉集落の人たちの生活を犠牲にして成り立ってきたものでした。
世界自然遺産に登録された今も、こうした状況が続いてよいのか?
1つの集落の問題としてでは無く、考える時期に来ているのではないかと思います。
世界自然遺産の裏側で、、壊される山|NHK 鹿児島県のニュース - nhk.or.jp
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