サンゴ礁は地球温暖化や環境破壊の影響で打撃を受けており、タイでは完全な状態のサンゴ礁はかつての3分の1しか残っていない。タイのチュラロンコン大学の研究チームは、サンゴ礁の生態系を回復する取り組みとして、3Dプリントで作製し、組み立て玩具のように簡単に組み立て、解体できる人工岩礁「Innovareef」を開発している。
サンゴ礁と美観の保全を目的としたInnovareefのコンセプトについて、チュラロンコン大学獣医学部水生動物研究センター長のNantarika Chansue准教授は「自然保護においては、結果と同様に方法が重要です」と述べている。これまでに開発された人工岩礁は廃タイヤや塩ビパイプなどを材料としており、美観を損ねるだけでなく海洋中や砂浜でプラスチックゴミになることがあった。
サンゴは海洋無脊椎動物で、柔らかい本体と固い骨格で構成されている。プラヌラと呼ばれる幼生は海中を漂い、岩や岩礁の表面に定着し成長する。自然のサンゴ礁を模倣して開発したInnovareefの表面は、サンゴの栄養となるカルシウムとリン酸でコーティングされており、プラヌラの定着に適した平らな形状をしている。また、穴や空洞は、魚や底生動物、海洋無脊椎動物が生息地や隠れ場所として機能する。Innovareefに定着したプラヌラは、自然界のサンゴ礁に定着したものと比べて、1年間に3〜4cmも早く成長することが確認されている。
また潮に流されて海洋ゴミとならないように、流体力学を活用して潮流に対する抵抗力を高めた構造をとっている。加えて水温、潮流、pHなどを計測できる装置を搭載し、海洋環境モニタリングのためのスマートステーションとしても機能する。Innovareefにはサイズの異なる5種類のユニットがあり、これらを海中で組み合わせて設置する。小型で軽量のため、輸送や設置が容易でコストも抑えられる。Innovareefは材料費、製造費、輸送費、設置費などを合わせても、わずか26,000バーツ(約10万円)で設置することが可能だ。
研究チームは2020年以降、タイ国内の複数の沿岸にInnovareefを設置している。設置から5分も経たずに魚などの生物が集まり新しい住処とすることが観察されている。さらに重要ことは、プラヌラの定着率や成長率が他の人工岩礁よりも優れている点だ。
研究チームは、今後はより製作コストを低減し、さらに自然のサンゴ礁に近づけるように改良していくとしている。
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