中高生のためのファッション育プロジェクト「フューチャー・ファッション・インスティテュート(FUTURE FASHION INSTITUTE、以下FFI)」は、「ファッション育」を通じて子どもたちの感性を磨き、未来の業界を担う人材やセンスを生かして働く子どもの育成を応援している。展示会への訪問や業界人へのお仕事インタビューなどを重ねるメンバーは、自らの体験をシェアして友人に刺激を提供。ポジティブなループを通して、子どもたちが「未来の自分」を思い描き、夢に一歩近づくことを願う。今回はオーガニック・ナチュラルコスメメーカーのカラーズを訪れた。FFIの大学生メンター、内藤里沙がリポートする。
今回のプレインターンシップは、コスメが大好きな高校生メンバーのリクエストから実現した。「ザ パブリック オーガニック(THE PUBLIC ORGANIC)」などのブランドを手掛ける東京発のオーガニック・ナチュラルコスメメーカーのカラーズを訪れ、創業の経緯や精油について学び、ルームスプレー作りを体験した。
メンバーが訪れたのは、骨董通りに構えるカラーズの専門ラボ。エレベーターのドアが開くと同時に精油の香りがふわっと漂い、メンバーからは「いい匂い~!」と歓声が上がった。ラボに入ると、50種類以上もの精油がずらりと並ぶ圧巻の光景が目に飛び込んでくる。全員白衣を着用し、まずは橋本宗樹代表から創業の経緯を伺った。
「好きなことを大切にし、追ってきた」という橋本代表のお話は、ヒップホップダンスに明け暮れた中高時代まで遡る。当時、男性に求められる資質として流行した「3高(高学歴・高収入・高身長)」に反発心を抱いていた橋本代表は、社会への不満を謳うヒップホップの反骨精神に共感した。大学時代はファッションショーや展示会の企画・開催といったイベントのアルバイトに没頭。アルバイトを通して「人から求められることが楽しい」と感じ、いずれ起業しようと心に決めたそうだ。
そして卒業後、ほどなくしてカラーズを創業する。当初はアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のファクトリーを骨董通りに再現したり、人気スポーツブランドのファッションショーをプロデュースしたり、イベント制作を中心に充実した日々を送っていた。その一方で「こだわること、モノを作ることが好き」な橋本代表は、「”花火”のようにパッと華やかに咲くけれど、すぐに消えてしまう」イベントの企画・制作に一抹の寂しさを覚え、モノとして残る何かを作りたいと思い始めた。
そんな矢先、「マツモトキヨシ(MATSUMOTO KIYOSHI)」からプライベートブランドの開発依頼を受けたことが転機となった。「とにかく中身が最高に素晴らしい商品」を作り上げようと「こだわりまくった」末に、高品質中価格帯のシャンプー「LUNG TA(ルンタ)」を発売。こだわって作ったものが評価されたことにやりがいを感じ、今後は化粧品を作ろうと決意を固めたそうだ。
化粧品ブランドの構想を練る中で、中高時代の反骨精神が蘇り「世の中に一石を投じてやろう」という気持ちが芽生えた。そんな中、「人生を賭けるにふさわしい目標」と出合う。1990年代からフェアトレードや動物実験の禁止に取り組む「ザボディショップ(THE BODY SHOP)」の創業者アニータ・ロディック(Anita Roddick)が謳う理念「企業には世界を良くする力がある」だ。サステナビリティが重視される近年では馴染みのある理念だからか、やや不思議そうな顔をするメンバーに「かつて、企業はお金を稼ぐことが全てとされていたんだよ」と橋本代表は補足説明。事業を通して社会を良くするべく、化粧品業界の中でもオーガニック・ナチュラルコスメに取り組むことを決意した。「マイノリティであっても正しいと思うことについて、社会に強いメッセージを発信する姿勢」はヒップホップにもオーガニック・ナチュラルコスメにも通ずる反骨精神なのだ。オーガニックの定義は、「3年以上化学肥料や合成農薬を使っていない土地で栽培された植物を使ったコスメ」だ。オーガニックコスメの開発・普及に取り組むことで、①有機農場の拡大による環境保護、②精油の効果に伴う心と身体のケア、③オーガニック原料の国産化に伴う地方創生という3つの要素から社会に好循環を生み出せると考えた。こうして、橋本代表はオーガニック・ナチュラルコスメで世の中に一石を投じ、事業を通じて世界を良くすることを目指した。
「オーガニックコスメの日常化」を目標に商品開発を始めるものの、4つの壁が立ちはだかった。①自然由来原料が故に品質が不安定なこと、②使える成分が限られるため使用感が悪いこと、③原料が高価なため商品が高くなること、④オーガニック・ナチュラルコスメがマニアックだったため、全国に店舗網を持つコンビニやドラッグストアに置いてもらいにくいことだ。「諦めの悪さ」と「こだわり屋」を生かしてこれらの壁を乗り越え、2012年の10月にシャンプーをはじめとするオーガニックコスメブランド「ARGELAN(アルジェラン)」をローンチした。
ここまで漕ぎ着けることができたのは「志を持ち、諦めなかったから」と力強く語る橋本代表は、「今日のテーマである“好きなことを仕事にする”でも同じことが言えると思うから、中高生のみんなも諦めずにチャレンジし続けてほしい」とエールを送った。
エビデンスのあるオーガニックコスメを作りたい!
研究開発部長を化粧品業界へ導いたアイテムとは?
続いて、岡野利彦・研究開発部長がキャリアや仕事内容を紹介した。「化粧品開発は天職」と語る岡野部長の運命を変えたアイテムは、「白いボールペン」だ。大学2年生のとき、白いボールペンは修正液にさまざまな改良を重ねた産物であると知ったことがきっかけだそう。「自分も科学を使って身近な人の生活を少しでも豊かにするモノづくりをしたい」と思い、大学院で有機化学を学んだのち、化粧品業界に足を踏み入れた。外資系の消費財メーカーでスキンケアの開発に15年以上携わり、4年前に転職。そんな岡野部長は「エビデンスコスメとオーガニックコスメを組み合わせた化粧品の開発に挑戦したい」と話す。そのために現在は、仕事の傍ら、社会人博士として精油が心身に与える効果の研究を行っている。精油の香りに関する科学的な解明は、世界中で進んでいる。例えば、集中力がアップすると言われているローズマリーの香りを嗅ぐと脳内の血液量が増加し、リラックス効果で有名なラベンダーの香りを嗅ぐと血液量が減少するという研究結果が発表されている。カラーズは精油をブレンドして化粧品に香りをつけ、心身のケアを狙っているそうだ。
プレインターンシップの目玉は、「心と身体を整える 100%精油オリジナル ルームスプレーづくり」だ。まずは植物療法士の資格を持つ、中村珠梨PRからレクチャーを受けた。ルームスプレー作りに使用する3種類のベースとなる精油は「ザ パブリック オーガニック(THE PUBLIC ORGANIC)」の香りと同じ、幸せ溢れる「スーパー・ポジティブ」、気持ち弾む「スーパー・バウンシー」、ストレスケアに適した「スーパー・シャイニー」だ。またベースの精油に加える7種類の精油は嗅ぎ比べ、効果やポイントを教えてもらった。例えば、グレープフルーツは人に幸福感を与える香りと言われており、フランキンセンスは呼吸をスローダウンさせるそう。7種類の精油は「元気になりたい時用」(グレープフルーツとイランイラン、ローズマリー、ユズ)と「リラックスしたい時用」(ベルガモットとフランキンセンス、ラベンダー)で分類されており、メンバーそれぞれが“なりたい気分”を考えて調合した。白衣を着てスポイトを握りしめたメンバーの顔は、真剣そのもの。岡野研究開発部長や橋本PRのアドバイスをもらいながら、思い思いのルームスプレーを作り上げた。
1kg300万円のローズを使用した精油と、100円ショップの精油の嗅ぎ比べクイズもあった。メンバーの間では意見が割れ、「勘で答えるしかない」というぼやき声も聞こえてくるほど難しい。「ブルガリアでローズの買い付けに行くときは、運転手さんが拳銃を持っているんだよ」という橋本さんの言葉に、メンバーは目がまん丸。香りの成分は開花のタイミングで放出されるため、バラが開花する朝の5時に農園を訪れ、咲いた瞬間に花びらを摘むのだと教えてくれた。
プレインターンシップの最後は、こだわりのナチュラルサンドイッチとみかんジュースをいただきながら、会話を楽しむ「コミュニケーションタイム」だ。頂いたみかんジュースは、国産原料にこだわった「アルジェラン(ALGERAN)」の精油調達先である伊藤農園のもの。伊藤農園は美味しいみかんジュースを作るべく、皮を潰さずに優しく果汁を搾るお椀型の機械を使用している。つまり、ジュースの製造時に生じるみかんの皮には精油が残っているため、それをカラーズが買い取り、オーガニック・ナチュラルコスメの国産化を実現しているのだ。
橋本宗樹代表に「今日は何で参加してくれたの?」と聞かれたメンバーは、「自分が好きなコスメのことを知りたくて」と答えた。「えらいなあ、僕がみんなくらいの年頃のときは、何も考えてなかったなあ」と笑う橋本代表を見て緊張がほぐれたのか、「将来の夢はなんですか?ってよく聞かれるじゃないですか。でもまだ分からない。そんなに聞かないでって思っちゃう」とこぼす場面も。橋本代表が「分からないよねえ!」と肯定すると、メンバーは我が意を得たりと嬉しげに笑っていた。将来の夢は分からないながらも、別れ際に植物療法士の中村PRと連絡先を交換するメンバーの姿を見て、好きなことが夢になる日も遠くないのかもしれないと感じた。
参加した学生のリポートから
今回は、コスメ企業のカラーズにオーガニック・ナチュラルコスメの魅力について、うかがいました。 オーガニック・ナチュラルコスメは、作るのが大変でコストもかかります。しかしカラーズは、「たくさんの人にオーガニック・ナチュラルコスメの魅力を知って欲しい」という思いから、手ごろな価格で提供することに力を入れています。そもそもオーガニックコスメには、肌だけでなく、環境にも優しいという良い点があるそうです。たくさんの魅力があるオーガニック・ナチュラルコスメという商品に目をつけ、沢山の人に商品を知って欲しいと利益を減らしてまで売っているのがすごいと思いました。ルームミスト作りは調合の体験が楽しく、こういう職業もいいなと思いました!(Kano/中学2年)
カラーズは要らなくなったフルーツの皮などから搾り出る油脂などを使ってシャンプーなどを作り、SDGsに貢献しながら肌に優しい成分を使ってしっかりと効果の出る商品を作り出しています。そしてフルーツなどから出る油脂には、人の感情を動かす働きがあるそうです。いいと思う匂いは、人によっても、年齢次第でも変化するそう。今回は好きな匂いを混ぜて自分好みのルームミストを作らせてもらいました。理科が苦手な私でも、楽しくプレ・インターンシップを楽しめました。(Anne/中学3年)
今回のプレインターンシップではフレグランスを作りました!最初に会社の説明を受け、フレグランスを作り、軽食を食べながら、とても楽しく学べました!何種類もの香りを混ぜても、フレグランスは臭くなりませんでした。これまではいろんな香りを混ぜると臭くなるという偏見を持っていたので、新たな発見でした。(秋山寿/中学3年)
自然派化粧品とヒップホップに共通点!? 精油の力を学んだ中高生の「ファッション育」Vol.5 - WWD JAPAN.com
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