世界自然遺産に登録された奄美大島で昆虫などの生き物が捕まえられ島の外に持ち出されるケースが増えています。取材をすすめると規制の抜け穴ともいえる課題が浮かび上がってきました。
(鹿児島放送局奄美支局 庭本小季)
奄美の森にバナナの袋?
希少な生き物が保護されている奄美大島の国立公園。今回、環境省と協力している鳥飼久裕さんのパトロールに同行しました。
夜の森のなかで鳥飼さんが探しているのは道路沿いの木のこずえなどに仕掛けられた昆虫採取のための違法なわなです。
その多くは「バナナトラップ」と呼ばれるもの。ストッキングやネットにバナナを入れて木につり下げられているのだといいます。甘い匂いでチョウやクワガタなど、貴重な奄美の虫を誘います。
国立公園のなかでは、生き物を採るために「わな」をかけることが法律で禁じられていて、世界自然遺産への登録後は、パトロールも強化されています。それでも鳥飼さんは現在の規制には抜け穴があると危機感を募らせています。
規制されていない場所で規制されていない種、爬虫類や昆虫を大量に採るケースが、最近増えている気がします。
改めて整理をします。
奄美大島の国立公園では昆虫採取のためのわなの設置は法律で禁止されています。
ただこのうち、すべての生き物を採ることが禁止されている「特別保護地区」は、島のわずか5パーセントにすぎません。
つまり、それ以外の地域では、特別に保護されている一部の生き物を除いては、「わなさえ使わなければ」捕まえて持ち出すことが出来てしまうのです。
空港からの持ち出し2.6倍以上に
実際、環境省によると、奄美大島では集計を始めた2019年から空港での規制外の生き物の持ち出し件数が年々増加しています。2022年は47件で、おととしから比べると2.6倍以上にまで増えているのです。
例えば去年、空港で40匹ほどのスジブトヒラタクワガタを一度に持ち出そうとしている人が見つかりましたが、「種」としては法律で規制されていないため、持ち出しを止めることはできませんでした。
奄美大島で密猟の対策を担当する環境省の釣谷洋輔さんは、こうして空港で見つかるのはごく一部で、実態はさらに深刻だと言います。
1番多い場合は200個体以上のアマミシリケンイモリ(準絶滅危惧種)を持ち出される方もいました。こうやって空港でわかっているものは氷山の一角なんです。
なぜ大量持出し? ネットをみると…
なぜこれほど大量に持ち出そうとするのか?釣谷さんはあるものを見せてくれました。奄美大島の生き物が数千円から数万円の高額な値段で取引されているサイトです。
なかには、すべての生き物の採取が禁じられている「特別保護地区」の油井岳が「産地」とするクワガタの出品もありました。
これがネットで簡単に買えてしまう。われわれからすると困っています。
釣谷さんは世界自然遺産への登録により奄美大島の生き物への注目が高まり、取り引きに拍車をかけていると見ています。
奄美大島産とか徳之島産とか、そういった島ごとにマニア心をくすぐるというか、ここで採ったものだという一定の価値があると思います。
ただ、こうした販売を規制できる法律はなく、手をこまねいているのが現状だといいます。釣谷さんは、大量の持ち出しを阻止できなければ、島全体の生態系にも影響が出かねないと危惧しています。
今たくさんいるからといってそれをたくさんとって持っていかれるのが繰り返されると、どこかで生態系のバランスは崩れてしまいます。生き物同士はずっと関係しあっています。何か対策を行わなければいけないと取り組んでいるところです。
空港での水際対策の強化に新兵器
こうした中、せめて規制されている生き物の持ち出しだけでも阻止しようと、奄美空港では水際での対策が強化されています。
しかし規制されている種かどうか…。航空会社の職員が見分けるのが難しいことが課題でした。そこで去年から新たに導入されたのがこのタブレットです。
特徴はチャット機能。環境省や各市町村の職員それから学芸員などと写真やテレビ電話などを使って、やりとりが出来るようになっています。種類を識別するほか、採った場所についても確認します。
画面を見てみると、なかには国の天然記念物のオカヤドカリを持ち出そうとした乗客の記録もありました。
国の天然記念物の持ち出しは文化財保護法で禁止され、違反すれば5年以下の懲役または30万円以下の罰金が課されることがあります。
タブレットを使って環境省の職員などと相談し、間一髪のところで阻止したということです。
奄美空港のグランドスタッフの久保靖子さんも、日ごろこのタブレットを使って対応しています。
日々、限られた時間のなかで乗客の対応にあたらざるをえない職員にとって、この機能はなくてはならないものだといいます。
私たちは素人なので、どうしても判断がつかないところがありますし、便を遅らせるわけにはいかないのでタイムプレッシャーを感じています。専門の方に実際に見てもらって、やりとりできるというのはすごく助かります。
これから観光シーズンが本格化する奄美大島。環境省は来島者にチラシを配るなど周知啓発や山でのパトロールを行い、対策を強化していきたいとしています。
生態系全体に影響があるということも配慮いただいて、引き続き監視を続けて注意を深めていくところです。
取材を終えて
取材で同行したパトロール中にはアマミノクロウサギをはじめ、アマミヤマシギなど、奄美大島と徳之島固有の生き物たちが暮らす様子が見られました。
豊かで貴重な森の保護が進められている一方で、違法ではないものの、規制の届かないところで、野生生物の持ち出しが、なかば公然と横行している実態に驚きました。
世界自然遺産登録を記念して島内にかかげられているタペストリーには「島の宝を世界の宝へ」との標語も書かれています。まさに「島の宝」がインターネットで高額で売られている現状を見ると、地元の人の感情は複雑なものでは無いかと思います。
地元の自然保護関係者の間では世界自然遺産に登録されたことを受けて、規制を強化しても良いのではないか、例えば場所とは関係なく規制する「種類」を増やしたほうが良いのではという声をよく聞きます。
今回の取材でも、環境省のパトロールに協力している鳥飼さんが「世界自然遺産の島で生き物を採取するという行為自体が問題じゃないのかな」と話していたのが心に残りました。
自然保護というと、どうしても希少な生き物だけに目が向けられがちですが、その生息を支えているのは、その周りに暮らす普通種です。世界自然遺産への登録から2年を迎えるなか、島全体の自然を守るためにどういう対策がふさわしいのか検討をする必要がありそうです。
世界自然遺産の島から持ち出される生き物たち - nhk.or.jp
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