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Sunday, September 3, 2023

自然の風景から得た感覚を半抽象画として描く。ラファエル・バーダ日本初個展インタビュー - Tokyo Art Beat

個展「Raffael Bader: Walk in Sizzling Air」が東京・六本木の現代芸術振興財団で8月25日〜9月22日に開催。ドイツ出身の新進気鋭アーティストに聞く

注目のアーティスト・ラファエル・バータ、日本初個展

明るく柔らかな色面が重なり合い、有機的なかたちを作っている。いくつかの絵には山や木だと明確に感じられる部分もあるが、そこに広がる風景は険しく厳しい自然でも、優しく穏やかな自然とも違う、もっと複雑で内省的な雰囲気を漂わせている。

自然の風景からインスピレーションを受けた半抽象画──。このように自身の作品を説明するのは、ドイツ出身のアーティスト、ラファエル・バータだ。

ラファエル・バーダ In the End the Bush Burns Down III 2022 キャンバスに油彩 Yusaku Maezawa Collection, Chiba Japan © 2023 Raffael Bader

8月25日〜9月22日、東京・六本木の現代芸術振興財団で、バーダの日本初個展「Raffael Bader: Walk in Sizzling Air」が開催されている。 バーダは1987年ドイツに生まれ、2019年に同国のライプツィヒ視覚芸術アカデミーを卒業。その後も同都市を拠点としながら、ドイツ、イギリス、スイス、アメリカなど世界各地の展覧会に参加してきた。2022年に現代芸術振興財団会長の前澤友作が作品をコレクションし、本展はそのなかから絵画作品7点を日本で初めて公開する。

風景と抽象

本展のために来日した作家に作品群について聞くと、彼の絵はどこか特定の風景を描いたものではないと言う。

ラファエル・バーダ 「Raffael Bader: Walk in Sizzling Air」会場にて 撮影:編集部

「作品の中心に風景があることはわかりやすいと思いますが、私が旅をしたり自然のなかで見た風景を直接描いたわけではありません。どちらかといえば、私が外に出て経験した風景を描いています。こうした自然や風景を、私は視覚的言語として用いています。

プロセスについて言えば、外に出て風景をスケッチするようなことはしません。まずドローイングを描いて、それを絵画にするか考えます。ドローイングを描くときは、かつて自然のなかで体験した自分の感情やシチュエーションを思い起こし、そうした記憶をもとにしています。

大学でアートを学んでいたときは、より具象的な作品や完全な抽象画などにも取り組みました。でも、いつも最終的には自然や風景に立ち返るのです。当時はその理由がわかりませんでしたが、しばらくして、都会のなかにいるときよりも、自然のなかにいるときのほうが、自分自身とつながれるということに気づきました。だから、私にとって作品に自然の要素を取り入れることはとても効果的なんです。自分の感情の世界ともっとうまくつながることができるから。

都会や人工的な社会から時々逃避することは、私にとって重要です。そうすれば、また社会に戻ってバランスを保つことができるし、ほかの人たちともよりうまくつながることができます」

ラファエル・バーダ Red Weeping Willow 2021 キャンバスに油彩 Yusaku Maezawa Collection, Chiba Japan © 2023 Raffael Bader

ドイツ南部バイエルン州の田舎で育ったという作家は、子供の頃から森へ行って遊ぶのが当然だったという。この頃の経験が、自然とのつながりを強く感じるようになった出発点のようだ。また人生の転機として、12年ほど前にオーストラリアに9ヶ月間滞在したことも大きかったという。国中をまわって体感したものは、それまで経験したことのないような自然と自由だった。

「風景や自然を自分のなかに取り込むことで、それは特別で個人的なものになる。それを思い出すことで、自分のなかで何かが起こるんです」

水彩のような油彩技法

バーダの絵画を間近で見ると、特徴的な表面を持っていることがわかる。たとえば、まるで水彩のように油絵具を扱うことで生まれた、薄塗りで透明感のある色面だ。

以前はよく水彩画を描いていたそうだが、いまは油絵具を水と混和可能にするメディウムを使用し、キャンバスに描いている。そうすることで、水のように薄い層と厚い層が画面に共存している。

「水はすべて生命にとって必要なもの。だから、私は自分の技法に水を取り入れるのが好きなんです。水は天候や熱に反応し、つねに周囲の環境に左右されます」

また、オイルスティックも愛用するメディウムのひとつ。オイルスティックによる塗りが、画面に独特の質感や動的な感覚を与えている。

バーダの絵画は平面的だが、複数の画材やテクニックの組み合わせによって、独特の質感の変化や奥行きが生まれているのだ。

色面と線のバランスや、厚く塗り固められていない余白を感じる画面から、刻々と変わりゆく自然の動的なありようや、時間の存在を感じると作家に伝えると、このように続けた。

「オープン・プロセスを持ち続けることが私の絵にとって重要なんです。だから、完全に完成したような絵は描きたくありません。ある人は芸術は決定的な一瞬をとらえたものだといいます。でも私はそうは思いません」

北斎や広重、日本美術とのつながり

ラファエル・バーダ Where Many Things Originate 2022 キャンバスに油彩 Yusaku Maezawa Collection, Chiba Japan © 2023 Raffael Bader

バーダは、アメリカの抽象画や印象派などあらゆるアートから影響を受けてきたが、特定のスタイルに追従することに意味を見出さない。そんななか、日本美術、とくに葛飾北斎や歌川広重らの浮世絵はパワフルで興味深いと語る。

「たとえば広重の風景画を見ると、それが一見なんの絵なのかわからない。ある意味“半抽象”的でもあります。実際に見る風景とは違うけれど、本物の風景のように感じられる。見る人がどんな文化的背景を持ちどの時代に生きていても、そういった条件を超越して、彼らの木版画に共鳴することができます」

実際、会場の中央にあるひときわ大きな作品《Where many Things Originate》(2022)は葛飾北斎の「赤富士」を思い起こさせる構図だ。また画面中央に樹木が大胆に配された《Near the Perfect Silence》(2022)も、広重の作品と比べてみたくなる。

ラファエル・バーダ Near the Perfect Silence 2022 キャンバスに油彩 Yusaku Maezawa Collection, Chiba Japan © 2023 Raffael Bader

全体的に平面的な画面と、抽象化された風景といった要素は、確かに浮世絵と通じるものがある。ただ、重要なのは表面的な類似よりも、自然や風景を前にしたときの作者の感情や感覚、そして思想がいかに作品に込められているか、そしてその作品を前にした鑑賞者の感覚や記憶にいかに働きかけるか、といったことかもしれない。浮世絵に親しんできた多くの日本の鑑賞者にとって、バーダの絵画やその自然観は、ある種の親しみを感じられるのではないだろうか。

ライプツィヒのアートシーン

最後に、大学時代から現在まで拠点としているライプツィヒについて聞いてみた。ライプツィヒと言えば、東ドイツ時代にあって社会主義リアリズムとは距離を置いたライプツィヒ派が独自の絵画を生み出し、ベルリンの壁崩壊後にはネオ・ラオホをはじめとする新ライプツィヒ派が国際的な評価を得た。こうした先行世代や、同地のアートシーンを、バーダはどのように見ているのだろうか?

ラファエル・バーダ 「Raffael Bader: Walk in Sizzling Air」会場にて 撮影:編集部

「ネオ・ラオホやマティアス・ワイシャー、デイヴィッド・シュネルといった新ライプツィヒ派は確かに有名です。彼らは東ドイツの伝統的な社会主義リアリズムの手法を用いながらも、それを打ち破るとてもユニークで特別な作品を生み出した点で、面白いグループだったと思います。

私がライプツィヒの美術大学で学んでいたとき、教授としてはもうネオ・ラオホしか残っていませんでした。修士課程の1クラスしか持っていなかったので、多くの学生が彼の授業を受けたがっていたと思います。

ただ、ライプツィヒのアートシーンは狭いんですね。新ライプツィヒ派がとても有名なので、ここに来たり学んだりする人が、このグループに囚われてしまっている部分もあるように思います。彼らのスタイルを継承するというようなことに対して、私自身はとても慎重に距離を保ちながら制作をしています。

ですから私がキャリアの最初から、ライプツィヒのコミュニティだけに依存しないよう、意識的に活動してきたことはよかったと思っています。ただ、ライプツィヒは住みやすい街で、多くのアーティストが住んでいます。現在は、過去の栄光に囚われていた状況から、少しずつ変わってきていると思います」

バーダの発言からは、美術史上の作品や作家に敬意を持ちながらも、特定の様式に縛られず、あくまで自分自身との対話から制作を行うという意思が感じられた。

近年、ドイツだけでなく世界各地での発表の機会が増えている気鋭のアーティスト。その作品を間近で見られる貴重な本展を、ぜひ見逃さないでほしい。

ラファエル・バーダ 「Raffael Bader: Walk in Sizzling Air」会場にて 撮影:編集部

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