雄大な自然が広がる栃木県・那須高原のふもとで、東京出身の女性3人が野菜作りに汗を流す。この珍しい農業ベンチャーを10年前に設立したのは長久保恵理さん（58）。きっかけは東日本大震災だった▲福島県に隣接し、原発事故の風評被害に見舞われた。それまでは知人に借りた農地に半ばリゾート気分で週末に通う程度だった。初心者に一から教えてくれた農家の男性が途方に暮れ涙を流す姿を見た時、全力で支えたいと決心した▲埼玉県で営んでいた雑貨店を閉め、気心の知れた友人2人と移り住み、農薬などを使わない自然農法に取り組んだ。大豆は周囲の農家からももらい受け、マキをたいてじっくりと煮て、芳醇（ほうじゅん）な香りとうまみを醸し出すみそに仕上げた▲東京の直売所に出品したところ、最初はさっぱり売れなかったが、手作りの味が口コミで広まった。お客さんの評判を地元に伝えると、沈んでいた高齢者も活気づいた▲一方、仕事で接する男性から女性を見下すような言葉を投げつけられ、くじけそうになったのは一度や二度ではない。農業を始める女性が増えてほしいが、社会はなかなか変わらないのかもしれない▲それでも重労働の草取りにてこずると、震災で絆を深めた農家の男性が手伝ってくれる。今年のノーベル経済学賞に決まった米女性教授ゴールディンさんは男女格差の解消に向け、成果を次世代につなぐ大切さを語った。長久保さんも支え合いの輪を広げ、美しい自然とともに未来につなぎたいと願っている。
余録：雄大な自然が広がる栃木県・那須高原のふもとで… - 毎日新聞
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