干潟はあるのに、なぜ人工干潟を造るのか-。千葉県市川市内の二つの市民団体が26日、市の人工干潟新設計画の見直しを求め、田中甲市長宛ての要望書を提出した。市は「市民が直接海に触れられる場所がない」と整備の理由を挙げているが、市民団体は代替案として江戸川河口部にある干潟の活用を提案した。計画地は三番瀬の一部であることから、自然保護の7団体も昨年、同様に江戸川河口部にある干潟の活用検討などを求める要望書を提出している。(保母哲)
干潟整備計画は、同市塩浜2の「塩浜三番瀬公園」南側に設けた階段式護岸の前に、幅100メートル、奥行き50メートルにわたって新設する。市民の憩いの場にするのが目的。2023~24年度に周辺海域のモニタリングや測量を行い、29年度の完成を目指す。
今回要望書を提出した2団体は市民団体「市川緑の市民フォーラム」と「NPO行徳自然ほごくらぶ」。江戸川河口部で、国道357号に架かる市川大橋の橋梁(きょうりょう)部付近では、潮が引くと干潟が現れる。フォーラムの佐野郷美事務局長は「既存の干潟があるのに、なぜ人工干潟を造る必要があるのか」と市の計画を疑問視。国や県と協議し、トイレや駐車場を供えた干潟公園(仮称)の整備を訴える。
2団体は市有地である塩浜三番瀬公園と階段式護岸の一部を海域に戻すことも提案した。一帯は埋め立て地であることから、「再び海域環境に戻すべきだ」とし、こうした取り組みは海外のほか、国内でも三重県・英虞(あご)湾や大分県・中津干潟で行われているという。
さらに、市がJR京葉線市川塩浜駅と南側の塩浜三番瀬公園との間にヤシの並木道を計画中とし、「1本100万円もする。税金の使い方に疑問を感じる」と撤回を求めた。
要望書の提出後にあった記者会見で田中市長は「私のところにまだ要望書が届いておらず、読んでいない」としながら、「さまざまな意見があるのは当然。それを受け止めつつ前に進んでいきたい」と述べた。
◆市は「埋め立て」否定
市が昨年8月に発表した整備計画によると、25年度に漁場への航路を確保するための浚渫(しゅんせつ)工事が予定されており、その工事で出た砂を海域に積み重ねる「覆砂(ふくさ)」で干潟を造成する。
周囲には岩を詰めたかご状の「蛇籠(じゃかご)」を曲線状に配置することで、干潟が崩れないようにする。造成する干潟は満潮だと海面に覆われ、干潮になると出現することから、市幹部は「干潟造成は埋め立てではない」と説明している。
◆貴重な生態系 三番瀬埋めないで 自然保護7団体も懸念
市川市の人工干潟造成計画を疑問視する要望書は昨年10月にも、自然保護7団体が連名で提出している。7団体は、市川三番瀬を守る会、三番瀬を守る連絡会、三番瀬を守る会、千葉の干潟を守る会、県野鳥の会、三番瀬を守る署名ネットワーク、県自然保護連合。
要望書で、人工干潟の造成海域一帯には「県レッドデータブック記載の重要種など多種多様な生物が生息しており、生物相が他の場所と異なるなど、特異な生態系を形成している」と指摘する。
三番瀬の埋め立て計画が過去に中止になった背景や、県も以前、同市塩浜2の猫実川河口域で検討した人工干潟造成事業を中止したことなども説明。人工干潟の造成は三番瀬を埋めることになり、自然環境に影響を与えるため「本来的に賛成できません」とした。
市が造成目的に「市民が海に触れ合える場の創出」を掲げていることにも触れ、今回の2団体と同様、江戸川河口部の干潟の活用を検討するよう求めた。メンバーの一人は「今ある干潟を利用すれば、新たに人工干潟を造る必要性はないはず」と話す。
三番瀬を巡っては、ラムサール条約の登録に向けた署名活動が続けられている。西側の葛西海浜公園(東京都江戸川区)の干潟は2018年、同条約に登録された。
<ほぼ入り江 ハゼ釣りにぎわう> 市川市内を流れる江戸川下流部は、行徳可動堰(ぜき)により河川水が流れ込まず、ほぼ海水が満ちる「入り江」のようになっている。江戸川の洪水を防ぐため、下流部は大正時代に掘削されたことから「江戸川放水路」とも呼ばれ、普段は可動堰のゲートが閉じられ、洪水時にゲートを開放する。このためハゼ釣りや潮干狩りをする愛好者が訪れる。この下流部を江戸川の本流としたことで、元の流れは「旧江戸川」と呼ばれる。
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