驚くほどの技術進歩が起きた商品のひとつにウィッグ(かつら)が挙げられるだろう。しかし、着けている本人が話題にしないことに加え、見た目にも分からないから、意外に知られていない。この知る人ぞ知る技術革新に導いた、業界のトップランナーがアートネイチャーだ。素材、製法、ビジネスモデルなどの面からアートネイチャーの半世紀を超える革新をたどる。(前回の記事<アートネイチャーは「バレない」 有名人CMで認知向上>)
「アートネイチャー」というブランド名はよく練られている。ウィッグを着ける人が求めるのは「自然な見え具合」「自然な着用感」だ。本来は自分の頭髪・頭皮ではないウィッグを着けるという、不自然なはずの行為を違和感のないようなじませる技術は一種のアートといえる。
「口コミはほとんど期待できない」という宣伝面での弱み
もはや日本の大人の大半が名前を知っているブランドだが、実は毛髪業界には宣伝面で決定的な弱みがあった。「口コミはほとんど期待できない」と、森安寿一専務は明かす。ウィッグ着用を他人に明かさない顧客が大半なので、よほどオープンマインドの人でもなければ、口コミでの拡散は期待しにくい。
マーケティングで最強クラスの手法を封じられた中、アートネイチャーが軸に据えたのは、「反響営業」と呼ばれる手法だ。ざっくり言えば、「飛び込み営業の逆」。テレビやインターネットなどの各種メディアを通して広告を展開し、それらに興味を持った見込み客を呼び込む顧客獲得戦略だ。「広告の反響という形で問い合わせが舞い込む」(森安氏)ところから、この名前がある。
ウィッグの反響営業は最初のコンタクトが肝心なビジネスモデルだ。悩みと不安を抱えて、アクセスしてくる人が少なくないからだ。わざわざ進んで電話をかけてくれる人は成約の期待度が高い。デリケートな向き合い方となるだけに、「どのコールセンターでも心を込めた応対に努めている」(森安氏)。
アートネイチャーのスマートフォン向けホームページではワンタッチでつながる電話ボタンが表示される。「初めての方へ」と書かれた案内ページへの誘導も目立つ。ユーザーがスムーズにアクセスしやすい導線は心理的ハードルを下げる。
ウェブサイトでもフリーダイヤルの電話番号が最上部に現れる。電話受付の面倒を嫌って、電話番号を隠す昨今の企業サイトとは正反対の対応だ。「お試し体験」「サロン検索」のボタンも大きく、初めての利用者を無駄に迷わせない。「問い合わせ件数はウェブと電話からが6対4」(森安氏)だという。資料を郵送する場合は発送者の名前を伏せる心配りを欠かさない。
大勢のスタッフが電話対応を受け持っている。様々な相談に応じられるよう、きちんと訓練されたスタッフが気持ちを和らげる。声も柔らかい。反響営業は基本的に「待ち」の構えとなるだけに、未来の顧客を迎える態勢に抜かりはない。
人材をそろえているのは反響営業のスタッフだけではない。独自の技量検定を実施。技術レベルをさらに押し上げた。全国技術大会も開催し、技術に磨きをかけ続けている。
ウィッグは最初の出来上がり段階で本人の髪となじむよう、カットを加える。その後も「髪が伸びてくるたびに、バランスを整える」(森安氏)。サロンへしばしば足を運ぶことになるので、顧客の髪状態や購入からの履歴などをちゃんと頭に入れているサロンスタッフは顧客にとって頼もしい存在。2、3年に1度の買い替えタイミングでも最初の相談相手になってもらえる。
アートネイチャーは「反響営業」 極めた自然見えの秘密|日経BizGate - 日本経済新聞
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