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Tuesday, June 25, 2024

<社説>日高山脈が国立公園に 原生の自然 後世に継承を:北海道新聞デジタル - 北海道新聞

 全国35カ所目、道内では7カ所目の国立公園「日高山脈襟裳十勝国立公園」が誕生した。

 日高、十勝両管内13市町村にまたがる24万5千ヘクタール余りと、これまでの国定公園時の2倍以上となり、大雪山国立公園を上回って国内最大だ。

 氷河に浸食され巨大なスプーンでえぐられたような「カール」と呼ばれる氷河期の痕跡があり、エゾナキウサギなど希少な動物やここだけに自生する植物の固有種も多いのが特徴だ。

 太古から現代に至る自然の価値を再認識する機会としたい。

 一方、国立公園の指定を機に観光振興に期待する声も大きい。ただ登山者や観光客が押し寄せれば、オーバーユース(過剰利用)やオーバーツーリズム(観光公害)が懸念される。

 原生の自然を後世に引き継ぐことを最優先に、保護と利用のあり方を考えねばならない。

■価値を損ねぬ整備に

 南北約140キロの日高山脈は砂防工事などで人の手が入っていない原生流域が国内最大だ。沢登りが必要な山があり、また登山口までのアプローチも長いことなどから、容易に人を寄せ付けてこなかった。

 山脈の核心部で最も規制が厳しい「特別保護地区」は約7万3千ヘクタールとなる。国定公園時の4倍弱に広げた点は評価できる。

 環境省の基本方針によると、核心部では経験者を想定した登山を、山麓部ではより広い利用者層に学びや体験の場をそれぞれ提供するとした。近く自治体や専門家、関係団体と協議会を設置し、公園のビジョンや管理運営方針などを策定する。

 登山道やトイレ、駐車場整備などが考えられるが、日高山脈の特性を踏まえる必要がある。

 峻険(しゅんけん)な山々は登山の難易度が高い。ヒグマも数多く生息する。アクセスが整えば、観光の延長で安易に山に入り事故に遭う人が増える懸念がある。

 過剰な整備は日高山脈の価値を逆に損ないかねない。

 入山しなくても楽しんでもらえる工夫も必要だ。麓を周遊しながら変化する山の表情を眺めたり、写真に収めたりすることなど知恵を絞りたい。

 自然保護を大前提にワイズユース(賢明な利用)へと、多角的に議論しなければならない。

■文化にも光当てたい

 国立公園は国定公園の名称に「十勝」を加えた。観光振興を念頭に置く十勝管内の市町村に配慮した格好だ。一方、自然保護団体は「日高山脈という名称に『十勝』は内包されている」などと反対し、改称するよう訴えている。

 いずれにせよ、日高、十勝両管内の市町村と関係団体が適切な保護と利用に向けて連携することが大事だ。

 さらに、日高山脈にまつわる歴史と文化に光を当ててはどうか。十勝ゆかりの山岳画家、坂本直行さんは日高山脈に魅了され、四季の山々を描き続けた。日高と十勝のアイヌ民族は文化の保存と伝承に努めてきた。

 観光客が自然に親しむのに併せ、アイヌ民族の文化に触れる機会を増やすのも意義がある。

 日高山脈南端付近のアポイ岳も国立公園に含まれる。地下のマントルが露出した「かんらん岩」の地質は独特で、世界ジオパークにも指定されている。標高は低く比較的親しみやすい。

 「花の山」とも呼ばれているが、高山植物が激減し乾燥に強いハイマツが増えている。温暖化で雪解けが早まり、土壌の乾燥が進んだとも考えられる。

 今後も植生の維持・回復に最大限努めつつ、アポイ岳の現状を温暖化が地球環境にもたらす警鐘と受け止めたい。

■行政の真価問われる

 気になるのは環境省が近年、全国の国立公園の積極利用を進めていることだ。観光立国という政府方針を踏まえ、富裕層のインバウンド(訪日客)の利用を増やそうと「国立公園満喫プロジェクト」を推進し、施設整備などを行っている。

 民間事業者との連携にも積極的だ。「保護と利用の好循環」と言いつつ、肝心の保護がおろそかになってはいないか。

 世界自然遺産の国立公園・知床にしてもそうだ。携帯電話基地局の設置を拙速に許可した対応を見ても、疑問が募る。

 工事は中断しているが、環境省は地元協議を注視するにとどまる。開発行為の可否判断は国立公園行政の要諦のはずだ。環境省の真価が問われている。

 釧路湿原では国立公園周辺で太陽光発電のソーラーパネルの敷設が進む。絶滅危惧種キタサンショウウオや国の特別天然記念物タンチョウの生息への影響が懸念される。

 国立公園外でも宗谷管内の大規模な風力発電計画は絶滅危惧種イトウの脅威となっている。

 環境省は再生可能エネルギーが生態系に及ぼしている影響について前面に立って調査し、必要に応じて規制すべきだ。再エネの拡大に即した実効性ある環境影響評価制度を、早急に整備する必要もある。

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