自然解説のプロフェッショナル、プロ・ナチュラリスト佐々木洋さんと楽しむ夏の自然観察!
今回の舞台は、千葉県市川市の江戸川放水路にある泥干潟。江戸川の洪水対策のためつくられた人口河川で東京湾とつながっています。潮の満ち引きがあり自然に形成された泥干潟は生き物の宝庫!この時期に出会える生き物や、特色ある地域の歴史を学び残していこうと取り組む人たちをご紹介します。
【まず干潟へ行く前に!注意すること】
●入っていい場所かどうか調べてから行くこと。
地域によっては入ることが許可されていない保護区域もある。
●身を守るため「潮時表」を確認してから干潮の時間に行く。
●台風・大雨、その前後には行かない。
●子どもだけでなく大人と一緒に楽しむ。
●生き物を観察したら元の場所へ戻す。
●ゴミは持ち帰るなど当たり前のマナーを守りながら自然観察を楽しみましょう!
江戸川放水路とは
およそ3キロの江戸川放水路。春から夏にかけては昼間によく潮が引き、干潟が広く現れます。
地域で親しまれている自然観察のスポットなんです!
「干潟というのはいろんな種類があるんですけど、ここは泥が中心の泥干潟。いろんな生き物がたくさんいて最高の場所。僕の大切な遊び場でもあるんです」
夏ならでは!たくさんの干潟の生き物
まずは服装。雨や日ざし除けの帽子・長袖、ケガを防ぐための手袋・長靴をはいて準備万端でいざ干潟の中へ。泥干潟というだけあって、一度足を入れるとなかなか抜けない!一か所に長居せず、ぽんぽんぽんとリズムよく歩くのが佐々木流の干潟の歩き方です。
そんな中まず迎えてくれたのは、ぴょんぴょん泥の表面を移動している魚。
この場所のシンボルという「トビハゼ」です。皮膚呼吸ができるトビハゼにとって、湿っていて栄養豊富な泥干潟が最高の場所なんだといいます。
「環境省の準絶滅危惧種に指定されている貴重な魚がここには山ほどいる。水の中から陸地へ逃げていくのは魚なのに水が苦手だからなんです」
続いて、干潟のあちこちで動いていたのが「ヤマトオサガニ」。
「特徴は甲羅の形、縦長、長方形っぽい。機織りの一部分のことを『筬(おさ)』と言って、カニの甲羅がこの筬を思わせるということで、ヤマトオサガニという名前が付いてるんです。もうひとつ面白いのが長い目、水たまりの中では潜水艦の潜望鏡のように、敵はいないかと周りを見張っているんです」
干潟には、たくさんの小さな貝も。「ウミニナ」の仲間です。ウミニナの注目ポイントは水の中!
筋がたくさんついていて、それをたどっていくと先頭にはウミニナが。筋はウミニナが通った跡なんです。
よく見ていると、少しずつ動いているウミニナを観察することができます。干潟の泥の表面だけでなく、小さな水たまりも見どころの一つです。
「ウミニナの通った跡はなかなか芸術的な模様なんです」
「ナスカの地上絵のような…!」
ヨシ原のまわりには…
ヨシ原付近にも注目!夏の時期だからこそ見られる生き物がいるといいます。
ヒントは大きな鳴き声。佐々木さんが真似をしてくれました。
「ゲシゲシケケシケケシ、キキキー」
ヨシ原の上のほうをじっくり見ていると、いました!「オオヨシキリ」です。
ウグイスの仲間で、色は地味だけれど、鳴き声は派手。初夏になると、外国から渡ってきてヨシ原に巣を作り繁殖します。オスが盛んにメスを呼んだり、縄張り宣言のために鳴いているといいます。
さらに、小魚を狙う「コサギ」も。干潟では野鳥観察も楽しめます。
佐々木さんイチオシ!ダンスをするカニ
静かに待って観察するのも楽しみのひとつ!ということで、干潟から少し離れた場所で泥の表面を見ていると。ハサミを上下に一斉に動かすカニが!
これが、佐々木さんイチオシ「チゴガニ」のダンスです。
チゴガニは、とっても臆病で俊敏。少し近づくと、パッと泥の穴の中へ。だから静かに待つことが大切なんだといいます。
「稚児って子どものこと。子どものような小さなカニだけれど、踊っているのは全部大人です」
なぜ踊るのかというと、求愛のため。大きなハサミを上下に大きく振り、青っぽいからだをしたものがオス。一方、小さなハサミで茶色っぽいのがメスです。夏が求愛の時期で、このダンスのような動きをよく観察できるんだそうです。
「たぶん周りのカニを見て動きを合わせてるような、まさにカニザイルですよ」
「カニザイル!うまいこと言いますね」
干潟のすぐ側!市川市立妙典小学校の中で育てているものとは?
たくさんの生き物と出会えた江戸川放水路の干潟。そのまわりは、住宅やマンション・工場など、都市化が進んでいます。その地域の中で昔ながらの歴史・自然を守ろうという取り組みが行われているんです。
佐々木さんと向かったのは、干潟のすぐ側で、学校の中にカニが現れることもしばしばという「市川市立妙典小学校」。
地域の歴史や自然を守りつつないでいく 妙典小ハス田クラブ
迎えてくれたのは「妙典小ハス田クラブ」の皆さん。6年前に発足したこのクラブでは、かつてこの地域で育てられていたハスを復活させようと、レンコン栽培をしているんです。
育て方を指導しているのは、元ハス農家の篠田務さん(写真右)と、元PTA会長でクラブの代表を務める安達宏之さん(写真左)。毎年参加したい児童や保護者を募り、ことしは大人・こども合わせて、33人で取り組んでいます。
市川市の妙典・行徳地域では、昭和の終わりごろまでレンコン栽培が行われていました。
いま小学校がある場所もかつてはハス田。海沿いの低湿地で泥の土壌がレンコン栽培に適した環境だったといいます。鉄道の開通や埋め立てによってハス田はなくなってしまいましたが、篠田さんが大切に保管していた種を使って復活させたんです。
「今ここにあるハスは妙典のハスで、最後のハスを今この小学校で育てているんですけど、ハスを食べたりすることで昔の生活などを思い浮かべながら、これからの街のことを考えられるかなと思いこのような活動をしています」
「この地域でハスがあったことだけでも知ってもらえればいいんじゃないのかな」
去年できたレンコンを株分けして、ことし5月に植えつけ。11月の収穫を目指し、これから花の観察会をしたり、背丈が伸びたハスが折れないよう風よけを作ったりと、大事に育てていくといいます。
「見た事あるのは、池に咲いてるハスだったんだけど、学校で育てるハスはどんなのか見てみたかった」
「プランターの中にヤゴがいるのでそれをとったりするのが楽しい」
「こういうところは、ヤゴがいるんですよ」
「ハスを育てながらそういう生き物も楽しめるんですね!」
「昔ハスがあったので守りたいなという気持ちがありました」
「ハスを通して地域の歴史、そういうものに関心を持つことで、地域の自然などを大事にしてくれる子たちが増えていく。そういうような街になってくといいかなと考えています」
【編集後記】
今回の舞台は干潟ということで、潮干狩りに行った小学生時代からうん十年ぶりに干潟へ入りました。
佐々木さんに観察のポイントを教えていただきながら、こんなにも都心に生き物がいるのか!と終始感嘆の声をあげながらの撮影でとっても楽しかったです。
そして、撮影場所から歩いて15分程、市内で一番新しいという市川市立妙典小学校へ。「妙典小ハス田クラブ」の皆さんに放課後集まっていただき、栽培しているハスを見せていただきました。代表の安達さんは、干潟や海の環境に魅了され市内に引っ越されたそうです。都市化が進むなか、地域の歴史を学ぼうという地道な取り組みが、自然を守ることにつながるんだとグッと心動かされました。ちなみに夏は、放っておくとハスを植えているプランターの水が干上がってしまうそう。メンバーが交代しながら水を足して、酷暑を乗り切るそうです。「手間がかかっているんだ」と育て方を指導する元ハス農家の篠田さん。秋、立派なレンコンが収穫できますように!
取材担当:髙橋香央里
てくてく散歩「千葉県市川市 江戸川放水路 干潟の自然観察」 - nhk.or.jp
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