哺乳動物学者の今泉忠明さん(78)が二回にわたって登場。富士山の動物を調べ始めて半世紀以上の今泉さんは、子どもたちに大人気の書籍「ざんねんないきもの事典」シリーズの監修者としても知られる。今回は二〇二三年の干支(えと)、ウサギなどの話をお届けする。
◆いい森探し ウサギ観察 開発・伐採で荒れた山に危機感
最初に富士山に入ったのは、学生だった一九六〇年代半ばごろ。父(動物学者の故今泉吉典さん)の調査、研究に助手としてついていった。
その頃は標高一、六五〇メートルぐらいの亜高山帯下部でモグラやコウモリをメインに行動を観察し、飼育や標本づくりもしていた。これらの種類は当時、狩猟法上では虫の扱いで規制もなかった。法改正でいまは捕獲などは許可制となった。
印象に残っているのはモグラの生け捕り。一斗缶をモグラが掘ったトンネルに埋めておくと、好奇心あふれるモグラが入ってくる。ただし、およそ三時間以内に見つけないと、パニックを起こして死んでしまう。だから、夜中三時間ごとに確認しに行った。
当時はテントも自由に設営できた。一回の入山で四〜五日滞在し、毎月のように行った。そうした調査で暮らしていけた時代だった。各出版社が科学雑誌を出していて、私たちは研究しながら記事を書いていた。若い時のそうした日々はものすごく楽しかったし、研究者たちはそうして育ったものだ。
後に富士山自然誌研究会を立ち上げる菅原久夫先生(植生が専門)と調査を通じて出会ったのもそうした時期。雪が一・五メートルほど積もっている中を須走口馬返しの小屋へ菅原さんは登ってきた。手づかみにしたモグラを持ってきてくれた。
富士山は開発や伐採が進んだ。荒れてしまった森にはウサギが少なくなってしまう。食べるものが少ない上、茂みもない。キツネなどに追いかけられるからだ。ワシやタカの獲物だが、そうした猛禽(もうきん)類も少なくなっている。生態系の基本が崩れているようだ。
それでもいい森は今も残っており、ウサギを見てきた。富士山のニホンノウサギは冬も体が茶色いまま。雪が降っても真っ白にはならないので外敵に目立ってしまい、とても不利だ。
岩手県の宮古などにいる俗称「ナベウサギ」も山梨側の富士スバルライン一合目(約九〇〇メートル)あたりの雑木林で見つけた。これはおしりの部分だけが黒っぽいから猟師は「鍋」と呼ぶ。冬、雪の中ではツツジや広葉樹などの木の皮とか何でも食べて過ごしている。
世界遺産の富士山は遠くから見ると美しいが、近くに行くと荒れているというのはいかがなものか。森を健全な状態に戻す必要がある。
<いまいずみ・ただあき> 1944年東京都生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。東京・国立科学博物館で哺乳類の分類学・生態学を学ぶ。国の各種生態調査に参加、トウホクノウサギやニホンカワウソの生態、トガリネズミなど小型哺乳類の生態、行動を調査。東京・上野動物園の動物解説員を務め、東京動物園協会評議員。「ねこの博物館」(伊東市)館長、日本動物科学研究所所長。著書「猫はふしぎ」(イースト・プレス)、監修書「ざんねんないきもの事典」シリーズ(高橋書店)など出版物多数。
※(下)は二十九日に掲載します。
関連キーワード
おすすめ情報
<最高峰に学ぶ 富士山自然誌研究会>哺乳類を研究 今泉忠明さん(上):東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞
Read More
No comments:
Post a Comment