●里山に雨、片付け阻む
降りしきる雨が片付けを滞らせていた。7日、震度6強の揺れから3日目を迎えた珠洲市内では、大型連休最終日で遠方から駆け付けた出身者らも協力し、住民が壊れた家財の撤去に追われた。「今は豊かな自然がうらめしい」。余震が続き、緩んだ地盤の土砂災害にも警戒しながらの作業に恨み節も漏れたが、最果ての地でそれでも前を向く人たちに出会った。(社会部・北脇大貴)
被害が顕著だった珠洲市正院町では、住民が室内からごみを外に運び出したり、雨が室内に入り込まないよう外壁にブルーシートを掛けたりしていた。この日の珠洲の気温は正午でも13・3度。前日より7度低く、雨に打たれているともっと冷たく感じる。
「2階はものが全部かやってしもたけど、今は何もする気持ちになれん。小さな揺れでも目が覚めてしもうて」。正院町で酒店を営む村元美智子さん(74)が疲れた表情で話した。
屋根を覆うためのブルーシートは手に入れたが、夫婦二人では雨の中で作業できず、そのまま。夫の優文さん(85)も「不安になることばかりや。早く天候が回復することを祈るぐらいしかない」と言葉少なだった。
●災害ごみ行き先未定
市内では大量の災害ごみの行き先が決まらず、正院町でも軒先にまとめられている家屋をいくつも見かけた。主婦向山恵子さん(71)は壊れた食器類の破片を集めた段ボール2箱を車庫で保管している。「まだまだ増えそう。早く市からの案内がほしい」と心配そうに話す。
●沖縄から急きょ帰郷
一方で、不安の中で過ごす住民たちを元気づけているのが、故郷を思って県内外から駆け付けた珠洲出身者たちだ。
沖縄・那覇で働く海上保安官の薮伸児さん(60)は飛行機を乗り継ぎ、6日に正院町小路に戻った。7日は朝から階段や屋根が壊れた実家の片付けを進め「あと何日かかるか分からず、家も半分は取り壊すしかない。それでも元気出してやるよ」と話す。傍らの母千津子さん(82)は「地震の後、体が震えとったけど、息子の顔を見て安心した」と笑顔を見せた。
●再開銭湯に笑顔
前を向く住民の姿はほかにもあった。正院町に近い野々江町の銭湯「海浜あみだ湯」は地震でタンクが壊れたが、修理して7日に営業を再開した。
番台では、女将の納谷信子さん(78)が営業しているかを問い合わせる電話が鳴るたび、「元気にやってますよ。夜は10時まで」と応じていた。「『やっと風呂に入れた。ありがとう』の言葉にこっちも元気なったわいね。もう年やけどできるだけ頑張る」と気丈な顔を見せてくれた。
正院町飯塚の山中美枝子さん(89)は避難先の正院小から訪れて湯につかった。「久しぶりに足を伸ばして風呂に入って生き返った」とぬれ髪のまま、うれしそうに教えてくれた。
屋外で話を聞いていると、そっと自分の傘をこちらの頭に差し向けてくれる人や、「あんたも大変やね。もってかし」とかばんの中からパンを差し出してくれた人もいた。何度断っても、「これしかなくて、ごめんな」と渡されたカンロあめは優しい味がした。住民と同じように穏やかな暮らしが一日も早く戻ってほしいと、雨が止まないまちを歩きながら強く思った。
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自然が今はうらめしい 本社記者ルポ 〈がんばろう珠洲〉|社会|石川のニュース|北國新聞 - 北國新聞デジタル
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