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Sunday, May 14, 2023

<最高峰に学ぶ 富士山自然誌研究会>甲虫を調査 鈴木愛広さん:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

 今回は富士山に生息する甲虫を調査している鈴木愛広(よしひろ)さん(60)が登場。あまり明らかになっていなかった南麓域での生息を数多く記録し、成果を上げている。

◆南麓域の生息を数多く記録 東富士演習場で新発見

昨年に実施した水生甲虫の調査から=御殿場市で

昨年に実施した水生甲虫の調査から=御殿場市で

 自宅から一キロ以内に駒門風穴(こまかどかざあな)(静岡県御殿場市)があって子供の頃からよく通った。駒門の名を冠する「コマカドメクラチビゴミムシ」「コマカドオビヤスデ」などは中学時代の「洞窟性生物の研究」につながった。ちょうど富士急行が富士山総合学術調査を出した頃で、富士山の周りの溶岩洞窟ばかりやたら詳しく出ていた地図を穴の開くほど眺めた。

 富士岡中学校科学クラブの特権(?)により無料で何回も駒門風穴に入り、先の二種やキョウトメクラヨコエビ、ガロアムシを見つけては何ともいえぬ喜びを感じていた。

 それから約四十年後。県立高校で日本史を教える傍ら、自然観察指導員となり地域の自然愛好会で自然観察会などを楽しんでいた。その後、縁あって「富士山総合調査」に名を連ねていた菅原久夫先生が会長を務める富士山自然誌研究会に所属することになり、二〇一六年度から富士山の南麓の甲虫をテーマに調べることになった。

 富士山の甲虫は、一九七二年「総合学術調査」では四十四科二百四十六種(南斜面だけでは百四十五種)が明らかにされた。二〇〇三年の環境省生物多様性センターの調査は北麓地域(山梨県側)だけの総合調査ではあるが、六十八科六百九十七種を記録した。

 しかし、南麓では一九七二年以後、大きな調査はない。賛同してくれる人たち(いわゆる虫仲間)とともに着手した。二〇一六年には二百四十八種を記録。翌年以降少しずつネットワークが広がり、一九年二月にようやく四十八科四百八十一種までになった。現地調査はもちろんだが、昆虫雑誌に掲載された報告も見逃さないようにチェックし「富士山南麓甲虫リスト」に加えさせてもらった。

クロトゲハムシ(原茂光さん撮影)

クロトゲハムシ(原茂光さん撮影)

 調査区域も広げた。水生甲虫もターゲットとし、二二年度は陸上自衛隊東富士演習場も対象とした。立ち入り期間や許可申請などの問題でまとまった調査ができなかった。そんな場所で、クロトゲハムシ(ハムシ科)を初めて確認することができたのは成果であった。六年後の二二年末現在で八十四科千二百三十九種の甲虫が記録されている。

 自分たちがやっていることは富士山で生存が確認される種を増やすこと。といっても自然が豊かになったわけではない。記録(リスト化)されたものには、開発行為などで既に絶滅した種もあるかもしれない。また、気候変動などで生息環境が変わっていき予断を許さない。温暖化と森林限界の上昇により新たな発見もあるだろうが、人知れず消えていく昆虫がいるかもしれないことを恐れる。

 甲虫と分野が異なる日本史を教えてきたが、「職業としての歴史」はありのままの社会を記録し伝えていくこと。加えて、埋もれてしまったありのままを掘り起こす、発掘すること。その点は生態調査にも通じていると思う。これからも調査は続く。とても一人だけではできません。バッタ目やカメムシ目、クモ類(多足綱)など未解明な分野を一緒に調査する人が現れてくれることを望みます。

<甲虫(こうちゅう)> 厚く硬くなった前ばねが背中側を覆い、これを上翅(鞘翅=さやばね/しょうし)といい、古くは鞘翅目(現在はコウチュウ目)という。さなぎになってから成虫になる「完全変態」の昆虫。世界では約30万種、日本では約8000〜約1万種がみられ、昆虫で最大のグループをつくる。ゲンゴロウ、カブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシ、ハムシ、ホタル、テントウムシ、ゾウムシなど。 

<すずき・よしひろ> 1963年、御殿場市出身。沼津東高、同志社大法学部卒。県立高校教員として6校で教える。2015年からは韮山高校で勤務し、今年3月定年。自然観察指導員、環境省自然公園指導員、県自然環境保全管理員。

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