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Sunday, September 10, 2023

水利権買い自然保護 オーストラリアで河川の流量確保 - 日本経済新聞

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

オーストラリアで生物多様性保全や自然資本の増強のための画期的な政策が浮上している。連邦政府が灌漑(かんがい)用の水利権を買い取って、河川の流量を確保するとともに流域の自然を保護しようとするアプローチである。

8月22日、連邦政府のタニヤ・プリバセック環境・水資源相はニューサウスウェールズ州、南オーストラリア州、クイーンズランド州、オーストラリア首都特別地域の各政府と「マレー・ダーリング流域の将来を保証する協定」の締結について合意に達したことを発表した。

大陸の7分の1

マレー川(約2530キロメートル)、ダーリング川(約2740キロメートル)、マランビジー川(約1690キロメートル)およびこれらの川の支流やクリークによって構成されているマレー・ダーリング川流域は、オーストラリアの南東部の約106万平方キロメートルにおよび、大陸全体の約7分の1に相当する。

流域には230万人以上が居住する。また同国の主要な農業地帯であり、同国の生産の4割を占める。特に米生産のほとんど、ブドウの生産の74%、乳製品生産の30%を同領域が担う。同時に、この流域には、約3万の湿地があり、16のラムサール条約湿地リスト登録湿地が含まれているという。

この流域では、周辺の乾燥した土地での農業による水需要が旺盛であり、河川の水を利用した大規模な灌漑によって、農地が切り開かれてきた歴史を持つ。かつてこの流域の農地は、決して水不足の問題は起こらないと言われたほどであった。

しかし、大量の水が農業用に使用されることで、河川の流量が減ってきた。水の塩分増加、アオコの発生が顕在化した。水位の低下は、酸性硫酸塩土壌を露出させ、ブラックウオーター(水が黒くなる)現象がより頻繁に発生するようになった。

流域の魚や鳥、哺乳類は徐々に減少した。少なくとも20種の哺乳類がすでに絶滅し、流域の魚種の約半数で保護が必要だとしている。

気候変動で水量減少

そこに、気候変動の影響が拍車をかけている。2001年から09年にかけてのミレニアム干ばつでは、アデレードなど下流域周辺の住民は、飲料水の供給が脅かされる事態に直面した。17年から19年も、流域でこれまで記録された中で最も暑く、最も乾燥した3年間となった。

足元では状況は緩和されている。だが、20年に公表された報告書は「特に南部盆地の冬から春にかけての降水量が減少しており、その原因の一部は人為的気候変動にある」「こうした、降水量減少は、河川に流れ込む水量と河川流量の減少として増幅される」「流域では気温が上昇しており、これは将来も続く」と分析している。

こうした状況に国も手をこまねいていたわけではない。連邦政府は07年に水道法を制定すると当時に、マレー・ダーリング流域庁を設置して統合的な流域管理を担わせることにした。12年になると、最初の流域管理計画が策定された。

十分な水が河川系に残るように規則を定め、節水のためのプロジェクトを措置する。河川から取水できる水の量に制限を設けて、水利権として利用主体に割り当てて水利権の売買も可能にした。

灌漑への水の割り当ては、直近の降雨量とダムの貯水量に基づいて行われる。ただ、深刻な干ばつが発生した場合、飲料水や衛生などの「人間のニーズにとって重要な」水が優先され、灌漑への水の割り当ては削減される仕組みだ。

ただ、こうした仕組みによっても、水不足の事態は緩和されるに至らなかった。湿地や生物多様性が失われていく状況に歯止めがかからない。そこで、冒頭に紹介した「連邦政府が灌漑用の水利権を買い取って、河川の流量を確保するとともに流域の自然を保護する」という政策が実行に移されようとしている。

政府が利用権利を購入

この政策が画期的だと考えられるのは、水もしくは河川流域という自然資本を利用する権利を、関係者に設定した上で、政府が財政支出により権利を購入して自然保護を図るという点にある。従来の自然保護は政府が保護区域を指定して一定の行為を禁止するか、私有地を買収して公園などにするか(行為の規制か公有地化)が主流だった。

環境保全と対立関係にある経済活動を、無償もしくは有償で一律に停止させてしまうことはしない。必要コストを上昇させるかたちで経済活動を抑制しつつ、環境保全を前進させようとするのが、今回のアプローチである。

水利権価格が上昇する多くの農家にとって、新政策には当然反対ということになる。だが取水を制限されたり、耕作が禁止されたりする強硬な措置に比べれば、仮に耕作面積を縮小しても水利権を売却することで得られる収入は一定の補償あるいは減反の報奨金としての意味を持つ。そのため受け入れ意向を示す農家もあるという。

世界では22年12月、新たな生物多様性に関する世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択された。30年までに陸域と海域の30%以上を保全する目標が掲げられた。ただ、目標は人々や企業の自発的行為によって達成されるとは考えにくい。何らかの政府の介入や公的関与が不可欠であろう。

他方で私有財産権を前提とする限り、政府が一気呵成(かせい)に私権を無償で制限することはできない。自然保護もしくは生物多様性保全のための有効な政策手法を早急に構築しなければならない理由はここにある。

オーストラリア連邦政府のアプローチは、そのひとつの試みとなろう。各州との協定に基づき、政策が実現するためには、連邦議会で関連法案が可決成立する必要があり、9月中には法案が提出される見通しといわれる。その成り行きに世界の注目が集まっている。

[日経産業新聞2023年9月8日付]

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