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Saturday, December 16, 2023

オーガニックコスメで離島の自然を未来につなぐリジェネラティブ・カンパニー・アワード2023:リトコス - WIRED.jp

日本書紀で「椿の島」と称されるほど古くから椿が自生する佐賀県加唐島。いまでも冬から春にかけて、約25,000本のヤブツバキが花を咲かせる。

しかし、東京の大島や利島、長崎の五島列島といった椿の産地と比べ、加唐島の知名度は低い。加えて、この地域の島々はどこも人口減少や耕作放棄地の増加、空き家問題や主産業である漁業の衰退などの問題を抱えている。

こうした問題と、いままで生かされていなかった島の豊かな自然をつなげているのがリトコスだ。同社は椿など島の植物を使ったオーガニックコスメの原料の栽培・製造に始まり、現在は離島の自然に触れるツアーや離島留学事業も進めている。

同社の創業者である三田かおりがその先に見据えるのは、次世代のための循環型社会をつくること。島だけの地域おこしに留まらない、オーガニックコスメを起点とした島のエコシステムの再生について話を聞いた。

知名度のない資源をどう生かすか

──三田さんはリトコスの創業前、化粧品メーカーで働いていたと伺いました。なぜ佐賀県でリトコスを創業するに至ったのでしょうか?

佐賀県は地元なんです。といっても、育ったのは現在拠点としている唐津市ではなく、佐賀市なのですが。就職は県外に出ましたが、出産と離婚を機に佐賀県に帰り、県の商工会連合会に就職しました。転機となったのは、そこで地方創生の仕事に携わったことです。その後、化粧品と地方創生をテーマにした組織が県内で立ち上がったのを聞いて、唐津にあるジャパン・コスメティクスセンターに所属しました。そこで椿をはじめとする地産素材の産地形成を任され、加唐島に自生する椿のことや、高齢化や産業の衰退、害獣といった島の問題について学び、事業を立ち上げたんです。その後、その事業をそのまま独立させるかたちでリトコスを創業しました。

──加唐島は古くから椿が自生していたと聞きましたが、いままではどう活用されてきたのでしょうか?

地元のおばあちゃんたちが椿油にして使っていました。椿油は地元の土産物店などで販売もされてはいたのですが、何に使うのかは特に明示されておらず、ただ「特産品」とだけ銘打って瓶で売られていたんです。そもそも漁業が主な産業なので、椿を栽培したり、椿油を製造したりしていた人もほとんどいません。

リトコスの創業者で社長を務める三田かおり。

リトコスの創業者で社長を務める三田かおり。

PHOTOGRAPH: RETOCOS

それぞれの島の「個性」を強みに

──いまでこそオリジナル・スキンケア・ブランドなどで原料として使われていますが、ブランドも担い手もいない状態から知名度を上げていくのは気が遠くなるような道のりに感じます。

そもそも加唐島の知名度は低く、東京の大島や長崎の五島列島など椿の主要な産地に対して、いくら頑張ったところで唐津の小さな離島は勝てませんでした。それがわかってからは、製品の裏にあるストーリーを伝えたり、産地や生産者の情報などを公開して透明化を図ったりすることで、企業のCSR活動などに貢献できるかたちを取りました。そうして椿を原料として、企業に使っていただくケースが増えてきたんです。

もちろん、はじめのうちは多くの企業から「ほかの産地と比べてブランドも供給力もない」という厳しい言葉をもらいました。そこで改めて自分たちの強みを探したんです。わたしたちの生産体制は他の大生産地よりも小規模ですが、その代わりに誰がどこの畑で作業しているかをきちんと把握しています。椿の生産において、クオリティが高くトレーサビリティが確保できていて、なおかつ産地の経済に還元できている例はまだなく、これなら勝てるかもしれないと感じました。加えて、世の中にトレーサブルなプロダクトの需要が増え、当たり前になったという流れも有利に働いたと思います。人間の体や産地にもよいプロダクトが、ようやく市民権を得てきたのでしょう。

──現在は椿に加え、唐津市の8つの島でローゼルやホーリーバジルなどのハーブ、日本ミツバチのハチミツなどの原料も製造しています。こうした原料の産地はほかにもありますが、唐津市ならではの強みはどこにあるのでしょうか?

8つの離島はそれぞれ島の風土が違います。例えばハーブを生産している高島は砂地なので、水はけがよく植物の香りが強くなります。潮風が吹くのでミネラルが豊富で、味や香りがよいハーブが育つというメリットもあります。わたしたちが原料としている作物はどれも、離島という環境だからこそできることに注力して育てています。それが実を結んで、質の高い商品をつくれていると感じます。

リトコスのオーガニックコスメづくり体験でつくれるフレグランス。

リトコスのオーガニックコスメづくり体験でつくれるフレグランス。

PHOTOGRAPH: RETOCOS

眠っていた耕作放棄地という資源

──リトコスでは離島の耕作放棄地を整備して植物を栽培していますが、そもそもなぜ島で耕作放棄地が増えていたのでしょう?

もともと島に農家を生業とする人はほとんどおらず、島民が自分で食べる分の芋やらっきょう、玉ねぎなどを栽培していました。その畑もイノシシの獣害で自家栽培できなくなり、高齢化の波も重なって畑がつくられなくなっていたんです。リトコスでは、そうした耕作放棄地を開墾してハーブを育てています。ハーブは野菜などと違ってかたちが悪いといった理由で出荷できないこともありませんし、軽量なので高齢者にも仕事をしてもらいやすい。虫の心配もいらないですし、独特な匂いでイノシシも近寄りません。

──ハーブの特性が、耕作放棄地を資源に変えたのですね。

離島には資源はたくさんあるのに、誰も資源だと思っていないことがよくあります。わたしは高島の耕作放棄地を資源だと思っていましたが、島民を含めてそう考える人はいなかった。島が高齢化で衰退していることもあり、毎年少しずつ協力・理解が広がっていきました。結果として、島の耕作放棄地の多くを貸していただいたり譲っていただいたりしています。

高島には宝くじ当選のご利益があるといわれる宝当神社があります。それゆえ、ピーク時は年間20万人ほど観光客が来ていたのですが、お参り後にすぐ帰ってしまい、あまり長く滞在してもらえませんでした。でも、ハーブの収穫をするにはうってつけの土地だったのです。

──栽培や収穫のプロセスは島の人たちが担っているのでしょうか?

全体の工程についてリトコスが責任をもち、細かな作業を島民の方に委託しています。高島は人口200人くらいで、1平方キロメートルに満たない小さな島なので、管理が行き届きやすいんです。島民の方々には、草刈りや苗植え、収穫といった、その時々のスポットで仕事をお願いしています。

島民のほとんどは漁師か元漁師なので、農家経験のある方はほとんどいません。わたしたちを手伝ってくれているのも、漁師を引退して島に住んでいる年配の方々です。当人からすると、作業するというよりも手伝ってくださっている感覚が強いかもしれませんね。

高島の宝当神社。宝くじの当選を願って毎年参拝客が訪れる。

高島の宝当神社。宝くじの当選を願って毎年参拝客が訪れる。

PHOTOGRAPH: RETOCOS

島を第二の故郷に

──リトコスはツーリズム事業も運営していますが、創業間もない化粧品会社としては珍しい事業展開です。

「こんな人・土地から原料がつくられています」と企業の方々に知ってもらうための取り組みが始まりでした。消費者は、どんな場所・プロセスでつくられているのかを気にするので、企業に原料の背景にある産地を実感してもらうことが大切なんです。この事業を始めてから、この椿オイルで化粧品をつくりたいという化粧品会社やエステの方も増えてきました。ただ、今後は島の環境について学んだり、オーガニックコスメづくりや香りづくりを体験したりできる一般向けのツーリズム事業も展開しようとしています。

──子ども向けには離島留学も運営していますよね。

はい。今年は福岡と佐賀から4人の児童を受け入れました。高島小学校の児童はひとりなので、小学校存続のために事業を受託しているんです。子どもたちには、自然の中で共同生活を学んでもらい、島が子どもたちの第二の故郷になればと思っています。

離島留学で島に滞在する子どもたち。ハーブの生育や収穫、収穫物を使った化粧品づくりも体験できる。

離島留学で島に滞在する子どもたち。ハーブの生育や収穫、収穫物を使った化粧品づくりも体験できる。

Photograph: koichiro fujimoto/Retocos

「地域おこし」ではない

──そうした多角的な事業の先に、リトコスは何を目指しているのでしょうか?

わたしたちは「自然と共生しながら豊かに暮らす」をビジョンとして掲げています。島には山も海も近くにあるので、環境問題がとても身近に感じます。地球温暖化で魚が獲れなくなったり、イノシシの獣害で畑がつくれなくなったりと、自然に関する課題が沢山ある。そのなかで課題を解決しながら、地元の経済活動を活性化させることが大切です。

かつて作物の栽培などで人間が手を付けた自然は、もう元に戻りません。元に戻すのではなく、再構築する必要があります。同様に島全体の賑わいも昔のように戻すのではなく、新しいかたちにつくり変える必要があると考えています。目標は、課題を解決しながら次世代を担う子どものために循環型社会をつくっていくことであり、オーガニックコスメの事業もその一環に過ぎません。

── 一方で、そうした変化を島民は望んでいるのかという問題もあります。

島民の方が求めていることを模索してきて、全員の意見をまとめるのはとても難しいことだと感じました。わたしたちが島にとってよかれと思って行なったことも、島民の間で意見が分かれることも多々あります。

経済面も大切です。島が衰退したいちばんの原因は、主要な産業がなかったことにあります。いま、リトコスが自然と経済を循環させる仕組みをつくらないと、補助金の切れ目が事業の切れ目、そして縁の切れ目となってしまう。わたしたちには、島にお金が発生する仕組みをつくる責任があるんです。仕組みを模索した結果、仕事を増やしてそれを島民に還元するという現在のかたちに落ち着きました。

耕作放棄地だった畑でハーブの栽培に携わる島民。

耕作放棄地だった畑でハーブの栽培に携わる島民。

PHOTOGRAPH: RETOCOS

──事業である以上、島民と意見が対立することも受け入れるということですね。

特定の土地に貢献したいというよりも、未来の地球全体に対して貢献したいと思って事業を続けています。そのなかで、過去に戻りたいという方とは意見が合わないこともあります。以前はすべての人に対して、事業を理解してもらいたいと思っていましたが、いまはいかに自分の軸を大切にしながら事業を起こしていくかを大切にしています。

──あくまで目的は未来の地球全体への貢献であり、島の自然はそのための資源だということですね。

はい。こうした考え方をするようになったきっかけは、自分が女性で子どもを産んで、自分の食べたものがその子の栄養になることを肌で感じたことかもしれません。命の連鎖が自分のなかで明確になったなと思います。自分は連鎖のひとつの地点でしかない。いまその自分に何ができるかと考えるようになりました。地域おこしのような取り上げられ方をすることもありますが、そんなつもりはまったくありません。一歩ずつ、自分のできることをしていくのみです。

(Interview by Asuka Kawanabe)

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オーガニックコスメで離島の自然を未来につなぐ──リジェネラティブ・カンパニー・アワード2023:リトコス

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※『WIRED』による「THE REGENERATIVE COMPANY」の関連記事はこちら


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