「勉強嫌いの息子の中学受験は、完全に親のエゴでした。でも最後に『中学受験をしてよかった』という息子の言葉を聞いてホッとしています」
こう語るのは、森将人さん。慶應義塾大学を卒業した元大手証券ディーラーだ。

中学受験は「何かに挑む」大きなチャンスでもあるが、義務教育でもあり、「やらなければならない」ものではない。大切なのは子どもの「やりたい」という思いだろう。
時として親が受けさせたい「だけ」になると、子どもにとって辛い経験になりかねない。
森さんが「中学受験をしてよかった」という言葉を聞くまでにどのような経験をしたのか、率直に綴る連載「勉強嫌いの中学受験」第6回は6年生の1月、第一志望の2月受験の直前の緊張感漂う時期のことをお伝えしている。

前編では、慶應を第一志望、立教新座を第二志望にしている森さんの息子が、「前受け」の長野県佐久長聖中学を特待生で合格したことをお伝えした。
いいニュースに雰囲気が良くなり、過去問も順調に点数を伸ばしていた。
しかし、算数の過去問の解答をよく見ると、計算をやり直していないにも関わらず、一度消して書き直した跡がいくつもあったのだ。

もしかしたら答えを覗き見てそれを書き写したのか。もしそうだとしたら、本番直前にどのようにしたらいいのか……。

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書き直した跡のある問題をのぞいた得点は…

過去問の冊子は、リビングの脇にある参考書の山に積んである。孝多が自分で見ようと思えば、可能な場所だ。ただ疑問なのは、なぜすぐにバレることをするかだ。

「書き直した跡がある問題をのぞくと、何点になるの?」
「20点は下がるな。合格者最低点も怪しいよ。それ以外にもあるかもしれない」

書き直した跡が残っているのは数問だが、過去問の解答から答えを書き写すだけなら跡も残らない。算数の答案だけを調べていると、そのほかの科目も怪しく思えてきた。

「このことはいわないほうがいいよね」

ぼくは妻の問いにうなずいた。訊けば孝多は逆上するだろう。物ごとの善悪や意味ではなく、現実と向き合いたくないのだ。

ここでせめてもしょうがない…Photo by iStock

すぐに見抜かれるにもかかわらず、書き写してしまうところまで追い詰めていたのだろうか。問題が解けなくても仕方ないと伝えていたはずではなかったか。今大事なのは自分の弱点を見つけることで、形だけいい結果を取ることではない。

孝多が答えを写したことは、過去にも何度かある。いずれも宿題をやるのが嫌で、答えを見てしまったという類のものだ。それ以来、答案に考えた跡が残っていない問題は、どう解いたか説明してもらうようにしている。