
■決壊伝える
茨城県取手市大留の小貝川沿岸。高さ1メートルほどの伝承碑が、田畑を背にひっそりとたたずむ。「決壊口の跡」。表面に刻まれた文字は、1950年8月7日、台風による河川の増水で堤防が決壊し、周囲で見舞われた浸水被害を伝える。
午前1時すぎに高須村(現取手市大留)の小貝川右岸堤防が約90メートル(後に約200メートル)にわたって決壊…。取手市史によると、当時の被害は死傷者662人、家屋全壊601棟、浸水面積約4000ヘクタールに及んだ。戦後復興の中で、水害との厳しい戦いを強いられた状況を記す。
同市は昨年6月、この伝承碑を含む計4基を国土地理院のウェブ地図「地理院地図」に登録した。登録すると地図上に地図記号が表示され、写真や伝承内容が記録される。市安全安心対策課の市毛康二郎さんは「どこでどんな災害があったのか、伝えることが大切」と話す。今後、防災教育やハザードマップなどとともに、地図を活用していくという。
■全国で1200基超
2020年の開設以降、これまでに地理院地図へ登録された伝承碑は全国で1200基超に上る。茨城県内では台風や豪雨による洪水のほか、東日本大震災の津波被害なども含め、3月現在で9市町32基が登録されている。
近年は「数十年に1度」とされてきた大規模災害が頻発する傾向にあり、被害も激甚化している。過去の教訓を生かした防災への取り組みが改めて見直され始めている。特に、広島県坂町で起こった18年の西日本豪雨による土砂崩れは、100年前の被害を伝える伝承碑脇で発生するなど、伝承碑が注目される契機となった。
茨城県も13年度、地域防災計画に災害教訓の伝承の項目を追加し、「災害に関する石碑やモニュメントの持つ意味を正しく後世に伝えていくよう努める」などの文言を盛り込んでいる。
■教訓落とし込む
「地図に落とし込むことで、過去の教訓を生かしていくことが大切」。同院応用地理部の永山透部長は、登録の意義を説明する。一方で、「古い伝承碑の手掛かりは少ない。世代交代が進む中で忘れられ、伝承が途絶えてしまったものも多くあるのでは」と指摘する。
そこで、同院は過去の文献や情報提供などを参考に各地域で残る伝承碑などを調査、自治体へ案内する取り組みを進めている。取手市が昨年、4基を新規登録したのもこうした取り組みが要因となった。
新年度から高校で「地理総合」が必修科目となる。防災や災害を学ぶ一助として期待されるなど、防災教育は転換期を迎える。同院もホームページで実際の地形と過去の自然災害を結び付けて分析し紹介するなど、地理教育支援に力を入れる。永山部長は「教育現場などで生かし、防災教育に役立ててもらえたら」と、期待を寄せている。
ウェブ上「自然災害伝承碑」登録進む 国土地理院 重要性増す防災教育 - 茨城新聞クロスアイ
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