遅い春が本番を迎えた白神山地。まだ雪が残る頂に向かい、山肌が新緑で埋まる。深い雪に覆われ、葉を落とした木々がさみしそうにたたずむモノトーンの世界から、黄緑色がまぶしい新緑の季節を迎えた。動物たちも盛んに活動を始め、白神山地(青森・秋田両県)は春の雰囲気に包まれた。
人里を離れ、小岳(秋田県藤里町)へと続く林道を進む。ふと、森の中から視線を感じた。特別天然記念物のニホンカモシカがじっとこちらの様子をうかがっていた。食べ物が乏しい長い冬を乗り越え、無事に豊かな春を迎えたようだ。微動だにしないカモシカと見つめ合うこと数分間……。不思議な時間が流れた後、静かに森の中へと消えていった。
冬眠から目覚めたツキノワグマは、空腹を満たそうとブナの新芽などを求めて残雪の上を歩き回っていた。日本最大級のブナの森が広がる白神山地は、哺乳類35種、鳥類94種、植物540種以上、昆虫類2200種以上などを育む。
多様な生態系を把握しようと、約30年ぶりとなる大規模な調査が4月から始まった。
弘前大学(青森県弘前市)白神自然環境研究センター長の中村剛之教授(56)を中心に、地元のボランティアら約50人が協力し、昆虫、植物、きのこの各分野に分かれて調査する。
最近になってクロアゲハやアオスジアゲハなど、本来生息していなかったチョウを見かけるようになったという。地球温暖化や人々の往来などで北上してきたと考えられる。こうした変化を記録し、将来、比較検討できるデータの収集を目指す。
中村教授は「手つかずに近い豊かな自然が残っているのが白神山地の魅力。人の影響でどう変わるのか記録することが重要だ」と意義を語る。
道路がほとんど整備されず、近づくことすら困難な秘境。今も残る8000年前の姿に対する畏敬の念が、研究者たちを駆り立てる。(写真と文 守谷遼平・冨田大介)
世界自然遺産登録・白神山地の春の目覚め - 読売新聞オンライン
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