舌を出した鬼やぬーっと首を伸ばした巨大なカタツムリ、大きく口を開けたちょうちんお化け、柔和な表情のお坊さん……。暗闇に浮かび上がる異形の樹木や岩の写真に、畏れや怖さを覚えるだけでなく、キャラクターのように愛らしさも感じる。幻想的でもある。
富士山の山小屋で働きながら日の出を撮るなど、自然と人間のありようを考えてきた著者が、屋久島に通った9年間の成果をまとめた。
タイトルは「じねん」と読む。人と自然を対置する西洋的な「しぜん」ではなく、人間を含む全ての存在や現象を指す日本古来の自然観で、緑と水にあふれる島を見つめるという態度を表している。
ヘッドライトをともしながら夜な夜な森へ分け入る。大自然の圧力が充満する暗闇やうねる木々に恐怖しそうな場面だが、「心の持ちようで、見える景色が変わってきた。屋久島と対話しながらカメラに降りてきたものを撮った」。吸い込まれるような黒の印刷が美しい。(睦)
『自然 JINEN』山内悠著(青幻舎) 8800円 - 読売新聞オンライン
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