国内初の世界自然遺産になって30年を迎えた鹿児島県・屋久島。海外からも人が訪れ、観光が基幹産業となった。一方で30年たっても解決しない課題もある。
屋久島が世界遺産になったのは1993年12月。樹齢7200年ともいわれる縄文杉を目あてに、入島者数はピークの2007年度に40万人を超えた。
「縄文杉の前は混雑して30分以上動けなかったほどでした」
ガイド歴約20年の中馬慎一郎さん(51)が振り返る。観光地となったことで、山や海を案内するガイドが根づいたのが、この30年の変化の一つだ。
中馬さんは屋久島観光協会のガイド部会長。協会に登録するガイド約140人を束ねる。所属していない人を含めてガイドは180人ほどいるという。
ピーク時の縄文杉登山ルートは道が狭く、多くの人で踏み荒らされた。4~5時間かけて縄文杉に着いても人気の写真スポットは混雑して時間待ち。トイレも並んでパンク状態だった。多いときで1日1千人超。いまと比べて5~10倍も多い。そんな混雑をいち早く経験した。
それから観光客は減少。2社あった高速船が1社になって運賃が高くなったことや、LCC(格安航空会社)路線が充実したことで観光客が沖縄などの離島に行くようになったためといわれる。
入島者数は最近では19年度に25万人と世界遺産登録前と同じ水準に戻り、新型コロナの影響を受けた21年度は15万人まで落ち込んだ。コロナ禍が落ち着き、春ごろから本格的に回復し始め、外国人客も目立つようになった。
中馬さんは現状を「混雑感もなく、ちょうどいい感じ」と話す。だからこそ、「観光客が増えた時に備えた施策をいまからつくっておく必要がある」。
屋久島町はジェット機が就航できるよう空港の滑走路延伸を求めている。目標とする入島者数は年35万人。滑走路延伸が実現して東京との直行便が就航すれば、再び屋久島に注目が集まる可能性がある。
島では人数制限を含めた議論が始まっている。縄文杉への立ち入り制限は11年に浮上したが、町議会が観光客が減るおそれがあると条例案を否決し、見送った経緯がある。それから12年。早ければ来春にも方向性が示されそうだ。
一方で「ガイドの質を上げることも課題」と中馬さん。町は16年に公認ガイドの認定制度をつくった。現在55人がいる。屋久島では山だけでなく、海や川といった観光資源もあり、地域の伝統文化や魅力も味わってもらおうと「里のエコツアー」という企画も始まっている。
「屋久島を深く知ってもらい、観光客の満足度をより高めることがガイドには求められる」。中馬さんは屋久島に何度も来てもらえるようリピーターを増やす取り組みが必要だという。
安房地区にある環境省屋久島世界遺産センターの入り口には、ロープで金具に結ばれたポリタンクが置かれている。中には20リットルの水。背負子(しょいこ)だが、重くて少し動かすのもひと苦労だ。
「これにし尿を入れて背負って山から下りてくるんです」と職員が教えてくれた。歩くたびに中のし尿が左右に揺れるためバランスをとるのが難しいといい、「大変なんですよ」。
いまでも解決していない課題が登山者のし尿問題だ。
山岳部の避難小屋のくみ取り式トイレにたまったし尿の多くは、タンクに入れて人力で里に運んでいる。
この費用をまかなうため、17年に山岳部環境保全協力金の制度が導入された。500円の募金から、条例に基づき日帰り入山で1千円、山中での宿泊を伴う場合は2千円を任意で支払ってもらう仕組みに変えた。観光案内所などで集めている。
最初の年は支出を上回る7767万円が集まった。しかし、事務局職員による横領事件が発生したこともあり、協力金は一気に減少。毎年赤字続きで、年2700万円ほどを町の一般財源から穴埋めしている。町職員は「早く町民負担にならないようにしないと」と顔を曇らせる。
自然環境を守り、快適に山を楽しんでもらうためには放置できない問題。財源確保のため、関係者からは協力金額の見直しや、いろんな用途に使えるよう広く「入島税」を集めては、という意見も出ている。
12月9、10日、人気の白谷雲水峡の小屋で、登山者に携帯トイレを無料で配り使ってもらう試みがあった。携帯トイレを持参して山で使い、登山口などにある回収ボックスまで持ち帰ってもらうという取り組みは、環境省も勧めている。
環境省屋久島自然保護官事務所の竹中康進(やすのり)首席企画官は「し尿処理の量を減らすことにつながる一つの方策」と意義を語る。ヘリコプターを使った搬出、バイオトイレ……。さまざまな策を併用し、問題解決に向けて模索が続いている。(仙崎信一)
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世界自然遺産30年の屋久島 ガイド普及、質の向上課題:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
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